高校野球編:第三話 最初の挑戦・最後の挑戦(中編) (Page 4)
Page: 01 02 03 04 05 06 07 08

カクガリとチビはお互いを見て、そして笑った。
「だが、その戦いも俺たちがいなけりゃ叶わぬ夢だ。脇役なら脇役らしく後押ししてやらにゃ
「そ、そうかもな」
「脇役なら脇役らしく・・・か」

みなそれぞれの朝を過ごしていた。緊張のせいで言葉もままならない者、いつもと同じ気分で行く者、両親の声援を受ける者、
恋人からのささやかなプレゼントを貰う者、神社にお参りに行く者・・・。そして、最後の決戦開始のサイレンが町中に響き渡ろうとしていた。

既に両校応援団が内野席を覆い尽くし、応援歌が球場内を飛び交っていた。
スコアボードには友引高校と一刻館商業の名前が書いてあった。しかし、一刻商のピッチャーは彰ではなかった。
「あたる・・・」
「なんだ、コースケ」
ベンチの外で、コースケはスピーカーを親指で指さした。
『四番、サード黒川くん』
あたるは眉をしかめた。
「彰がサード?どういう事だ?」
「あいつは見せかけのエースやったんや・・・」
ベンチの中から親父が声を低くしていった。
「見せかけ?」
「本当のエースは・・・、ほれ、あいつや」
親父は目でマウンドの上を指した。そのマウンドを見てみるとそこには背番号18とかかれたピッチャーがいた。
「背番号18番。大山博和。はっきりいってあいつは手強いで。甲子園でも十分通じるピッチャーや」
「しかし、なんであいつがエースじゃないんですか?」
「ああ、実はこの大会が始まる前に怪我をしたそうや。県予選は駄目とおもいよったけど、驚異的な回復力でな。
 準決勝でラスト三イニング投げて調整した後、決勝に間に合わせたっちゅーこっちゃ」
「そうすると厄介だな」
横から竜之介が歩み寄ってきた。そして、マウンドをにらむ。
「ああ、実力が彰以上である上に、彰は打つことに専念出来る」
「それにエース復活となるとチーム全体にも勢いが付くからな・・・」
竜之介のその言葉にコースケは何故か昨年の決勝戦、ほぼエース不在のような試合を思い出した。
「エース復活・・・、か。ウチも復活したようなもんだけどな・・・」
「そうだな」
2人はあたるに目線を移した。あたるはマウンドではなく、ベンチの中の彰をにらんだ。
その視線に気付いたのか、彰も体を正面に向けてあたるをにらみ返しす。
(答えを見いだしたのか、試させて貰いますよ・・・)(彰)

スタンド
そこには去年と同じく面堂の姿があった。その横には温泉マーク、そしてルパの姿も見受けられた。しかし飛麿の姿はない。
「黒川さん・・・」
「ああ、終太郎か・・・。やはりあたるの応援か?」
「いえ、偵察ですよ」
「・・・そうか。ただ、あいつは一刻商を敗れるか・・・」
「彰くんですか?」
「ああ。彰ははっきり言って十年に一度の逸材だ。来年は間違いなく、NO,1プレイヤーだ」
「でしょうね」
あっさり答える面堂をルパはちらっと横目で見た。面堂は余裕の笑みを浮かべていた。
「ただ、諸星は百年に一度の逸材ですよ」
「・・・」
ルパはそれ以上答えを出そうとはしなかった。そしてマウンドの上に立つあたるを見ると今まで三年間のことが思い出された。
「あたるたちにとっては最後の夏だな・・・」
「いいや、最初の夏ですよ・・・」
ルパはこの意味が何となく分かる気がした。


あたる達のいる球場は東東京地区内で甲子園へのたった一枚の切符を争う二つの高校の最後の決戦が始まろうとしている。
そして、グラウンドに夏の日差しが照りつける中、審判の右手をあがり、サイレンが鳴った。
「プレイボール!!」
   


PART4「【耐えてくれ】」
ウゥゥゥゥゥゥ・・・。
球場に試合開始のサイレンが鳴った。友引高校は後攻。あたるは振りかぶって、第一球を投げた。
まっすぐに伸びたボールはバットに引っかかり、ぼてぼてとサード、パーマに向かっていった。
しかし、パーマは握り損ね、ファーストに投げたが間に合うことはなかった。
『あぁっ!ファースト上谷!握り損ねた!投げはしましたが、間に合いませんでした!ノーアウト一塁!』
パーマは深くあたるに謝った。あたるは軽く笑って流すと、二番バッターを見た。
あたるは一塁に目をやり、そしてまだあまり完成していないフォーク投げた。ボールは思った以上に落ち、バウンドしコースケの足に直撃した。
「イテッ!」
思わず声を上げた。少しタイムが掛かったが、それほど苦しむことでもなく、ボールをあたるになげかえす。
二球目を投げるといきなりバントをされた。慌てたあたるは勢いよくボールを取りに行き、ファーストに投げたが、メガネの足が
ベースから離れ、セーフ。ノーアウト一、二塁。
『友引高校不運!またもや、エラーで得点圏へランナーを出してしまいました!』
「あぁっ!?」
あたるはメガネににらみを利かせたが、メガネは自分は悪くないと言わんばかりに、そっぽを向いた。
あたるが声を上げたのはそのためだ。
(くそ!文句があるならお前が投げて見ろってんだ!)

Page 3 Page 5
戻る
Page: 01 02 03 04 05 06 07 08