高校野球編:第三話 最初の挑戦・最後の挑戦(中編) (Page 6)
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友引ベンチに嫌な予感が立ちこめていた。あたる自身もそれが怖かった。あのピッチャーから頑張って取れるとして二点。
もし、さっきの球を打たれていたら最初から勝負は付いていたことになる。


PART5「【自慢していいぜ】」
三回の表、球場に金属バットが吠える音がした。その音に片方のスタンドは歓声に沸き、片方のスタンドは最悪の事態を恐れた。
しかし、外野から吹く風が惜しいと言う気分と危ないという気分を球場に作り出した。
『惜しい!九番、小山内(チビ)!球は真芯に捉えていましたが、逆風に阻まれました!!フェンスぎりぎりで、アウト!試合は0−0のまま!
 次は一番藤波です!』
両軍共に点を取れずにいたが、差は歴然としていた。一刻商は毎回何かとランナーを出している。幸い友高の守備がなんとか活躍し、無失点に
抑えているがそのうち点を取られるのは関の山だ。逆に友引高校は今の所ノーヒット。四球の走者が1人出たぐらいだ。

友引ベンチ
「くそ〜・・・」
チビがバッドを引きずりながら戻ってきた。
「惜しかったな」(パーマ)
「風さえなければ入ってたんだ。自信を持て!」(メガネ)
少しイラついているチビをパーマとメガネの2人が声をかけた。しかし、イラついているのはチビだけではない。
「風がなかったら?笑わせるな!」(コースケ)
ベンチの端で、壁に寄っかかっているコースケが大声を出した。。
「風が無くとも甲子園じゃ、あんなのただの外野フライだ!あんなあたりで喜んでんじゃねえ!」
「なんだとぉ!?」
パーマがコースケの胸ぐらを掴み上げた。
「いいか!俺たちの最終目標はあくまでも甲子園制覇だ!あんなあたりでよろこんでたら、ただの初出場の高校だ!
 もっと上を目指す必要があるんだよ!」(コースケ)
「何言ってやがる!俺たちは名門じゃない!超強力打線とか、そんなのいらねえんだ!」
「寝惚けるな!名門以上じゃないと甲子園制覇はあり得ない話だ!」
2人の大声はベンチ内に響いていた。ナインはその2人をおそるおそる見ていた。
「黙れ!!」
その2人を黙れの一言で鎮めたのはあたるだ。
「・・・」
胸ぐらをつかみ合っていた2人は静かにその手を外した。両者、胸ぐらがしわくちゃになっている。
「いま戦っているのは各県のナンバーワンじゃない。一刻商だ・・・。そんなこともわからんのか?」
「・・・すまん」

『さあ、回は四回に移ります!この回の先頭は五番、鬼木(レイ)!二年前、恐怖の一年生と呼ばれた程の実力は今も健在です!
 いまは白井が四番ですが、実力は白井に劣らないモノがあります!さあ、大山、振りかぶって投げた!』
ボールはアウトコースぎりぎりの所に飛び込んだ。レイは振ろうとしたバットをぎりぎり止めた。
「ボール!」
『判定はボール、鬼木、よく見ています!さあ、第二球め!』
今度の大山のボールは真ん中に来た。大山の投げ損ないだ。
(ど真ん中!)
レイは心の中で叫んだ。迷わず強振。しかし、真芯にはあたらなかった。わずかながら回転が掛かっていた。しかし、ボールはサードの頭を越え、
フェンスの所までテンテンと転がっていく。
『ヒット!初ヒットです!友引高校!鬼木はファーストを蹴ってセカンドへ!』
余裕だった。レイは多少の足の速さもある。スライディングする必要もなくセーフ。
『ノーアウト、二塁!次は六番藤木(メガネ)!』
(どうやら我々につきが回ってきたらしいなぁ)
メガネは不適な笑みを浮かべた。
「ストライーク!バッターアウト!」
七番のパーマがすれ違いざまに声をかける。
「ドンマイ!」
「いいか、パーマ!いま俺たちに流れが来ている!必ず打て!」
しかし、パーマの打った球は痛烈な打球だったがファーストの真正面へ。ファーストライナー。
「なにやっとるかぁ!」(メガネ)
「俺、いま初めてお前に殺意を抱いたぜ。三振よりなんぼかマシだろううがァー!!」(パーマ)
『さあ、ツーアウト二塁!友引高校はランナーをかえすことは出来るのか!』

「次は・・・、カクガリか。厳しいのぉ」
親父がベンチから乗り出す感じで、バッターボックスを見た。
「なにいってるっちゃ。カクガリさんはいつもチャンスの時に限ってヒットを打つ人だっちゃよ。
 準決勝だって先制のタイムリーツーベース打ったし」
後ろからラムが落ち着いた顔で親父に話しかける。
「しかしのぉ。相手は一刻商のエースやで?レギュラーの中でバッティングが一番下手なあいつが打てるかいな?」
すると、ラムが親父の尻をスコアブックで殴った。パチーンと音が鳴る。
「なにすんねん!?」
親父は少し怒鳴りつけたが、それでもラムは負けじと立ち上がり、なんと胸ぐらを掴んでみせたのだ。
「数少ないチャンスに打てなかったら甲子園はないっちゃァー!」
どうのこうのしている内にカクガリがツーストライクまで追い込まれていた。
しかし、次の三球目。カクガリの打った球がファーストの頭を越えるラインぎりぎりの球を打った。

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