高校野球編:第三話 最初の挑戦・最後の挑戦(中編) (Page 7)
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一刻商の守備陣はファールかと思われた球をあまり追いかけることはなかった。しかし、ボールはライン際ぎりぎりの所に入ってしまった。
「フェア!」
カクガリが打ったときにはレイはフェアだということを確信していた。レイはバットの音が鳴ったときには既に走っていたのだ。
『フェアです!フェア!セカンドランナー鬼木は既に走っています!』
レイは全力疾走を駆けた。一刻商から点取るチャンスはもう来ないかも知れない。レイは歯を食いしばりながら走った。
サードを蹴り、ホームベースまでは後少しだ。汗が滝のように流れるのに対し、息はしていなかった。息をしたら失速してしまいそうだったからだ。
『セカンドランナーはサードを蹴ってホームベースに走る!ライトは何をしている!?』
ライトはボールの正面に回り込み、走った勢いを付けながらそのままホームに投げた。ボールはレーザーのように一直線に伸びていく。
『ライト、いま投げた!鬼木、もう少しだ!これはクロスプレーになりそうだァ!!』
レイはヘッドスライディングをした。レイの体は地面と平行に地上十pを飛行し、そして、両手がホームベースに届こうとしたとき、
横からボールをキャッチしたキャッチャーミットが向かってきた。そして・・・。
激しい砂煙がホームベースを包んだ。誰もが固唾をのんでその一瞬の判定を待った。親父は息をするのも忘れている。セーフなのか、アウトなのか。
わずかな時間がとてつもなく長く感じられた。そして主審の手が動いた。
「セーフ!!」
大歓声が上がった。思わず、張り裂けるぐらいの声を出す男生徒。メガホンを叩きながら飛び上がる女生徒。そしてガッツポーズを取る友高ナイン。
この姿が、ベンチ内のあたるの目に移った。
『セーフです!セーフ!!友引高校、一刻商から貴重な一点をもぎ取りました!!場内の大歓声が、そして友引ナインが鬼木にエールを送ります!!
 ついにスコアボードが動きました!!1−0!!なおもランナー二塁!追加点を取ることは出来るのか!!』
「九番、ライト、小山内くん」
「いけぇ!チビ追加点じゃ!」(親父)
親父は先制点に完璧に調子に乗った。
キィーン!
友引ベンチに明るい音がした。ボールはショートの頭の上をとんだ。カクガリがすかさず、ダッシュする。
これまでにここまで懸命にダッシュしたことはなかった。
「よっしゃあ!」
しかし・・・。センターから帰ってきたボールは余裕のタッチアウトだった。
「あー、くそぉ!」
『タッチアウト!スリーアウトでチェンジです!しかし、この回、友引高校先制しました!』
あたるはその様子を静かに見守ると帽子をかぶってベンチの外に出た。
すると、カクガリと暗い顔ですれ違った。
「自慢していいぜ」
「え?」
カクガリはすれ違ったあたるをみた。あたるはスタンドを見ながら更に口を開く。
「一刻商相手にお前は先制タイムリーを放ったし、ホームベースまで走ることが出来た。お前は間違いなく、友高の救世主だよ」
「・・・」
カクガリは何だか嬉しくなった。そして、笑顔を取り戻すとベンチまで走っていった。
その様子を見たあたるは軽く笑みを浮かべると、先制を許してしまった一刻商を見た。彰がじっとこちらを見ている。
その目には余裕すら感じられた。
(カクガリの先制タイムリーも無駄だったってか・・・)
あたるは彰の目にそんなモノを感じた。

PART6「【叶わぬ夢か・・・】」
既に昼間の最高気温までに達していた。激しい夏の太陽が高校球児達の汗を垂らしていた。
キィーン! 
試合が始まってもうこれで何回目の快音だろうか。
『打ったァ!ボールは右中間に落ち、いまライトがバックホーム!・・・、いや、ランナーは三塁に残っています!ツーアウト二塁三塁!
 友引高校助かりました!しかし、次は四番の黒川!友引高校大ピンチです!!』
「打たれてるな」
ルパがぼさっと呟いた。
「ええ・・・。どこか調子でも悪いんでしょうか?」
「見る限り、別に以上は見えないんだが・・・」
「一刻商ってこんなに強いチームでしたっけ?」
「おいおい、仮にも春の日本一だぜ?強豪中の強豪だよ」
「しかし、去年のあたるを見ても此処まで打たれることはなかったですよ。しかも、今年は五代や三鷹のような超強力なバッターも彰くん程度のはずだが・・・」
「また、別のことで問題を抱えてるんじゃないか?」
温泉が口を開いた。さっきからじーっとあたるを見ている。
「と言うと?」(面堂)
「俺もそこまではからん。だが、完全に打ちのめされるモノではなく、なにかはっきりしない何かがあいつの精神をむしばんでいるかもしれない」
「だが、あいつにはいまは何も・・・」
「あいつは何かと変なところにショックを受けるからな。俺たちにはどうしようもない・・・」
温泉と面堂はそのままこの試合を見入り込んだ。
(まさか、あいつこの前言った事を勘違いしてるんじゃ・・・)

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