高校野球編:第三話 最初の挑戦・最後の挑戦(中編) (Page 8)
Page: 01 02 03 04 05 06 07 08

ルパは去年の夏の終わり頃、あたるに会っていた。その日、しのぶに言われてあたるが野球部に戻ると伝えに来たのだ。
その時ルパはあることをあたるに言っていた。その時の事だ。

「四番サード黒川くん」
彰がバッターボックスに立つとあたるは帽子の鍔を深く下げた。
(自分のための甲子園・・・か)
あたるは前屈みになってコースケのサインを見た。全球ストレートとのことらしい。あたるはボールをギュッと握った。
そして、彰が構える。その様子を見て、溜息をついた。
(自分のための甲子園を目指してる奴の実力を見せて貰おうじゃねえか!)
あたるは怒りにも似た力でボールを乱暴に投げた。しかし、球の速さは並ではない。この試合最高のスピードだ。
そして、彰はバットを少しひいて体の回転に任せながら、バットを強振した。それは彰からのある意味贈り物だったかも知れない。
彰のバットが振り終わった瞬間、あたるはパッと後ろを見た。遠い、ライトスタンドの中だ。そこに一つの小さな白球が見えた。
信じられなかった。自分が一瞬でも否定した彰のバットがさっきまであたるの持っていたボールをライトスタンドまで放ったのだから・・・。
『ホームラン!!ホームランです!!四番黒川!此処で起死回生の逆転スリーランホームラン!!凄い!もの凄い黒川彰!!
 六回の表、一刻商!黒川のホームランで逆転しました!!』
その後、あたるは五番をファーストゴロにしとめ、なんなくベンチに戻っていった。
「五番、セカンド鬼木くん」
「よーやった、彰!」
一刻商の監督が彰を褒め称えた。彰がヘルメットを取るとベンチにドサッと座った。
「ふざけやがって・・・」
「へ・・・?」
監督が彰の言葉に思わず目を丸くする。彰はマウンドの上のあたるをにらんだ。

友引ベンチ
「ドンマイ、あたる。あんなのまぐれだ!ただのラッキーヒットだよ!」
パーマが手を叩きながらあたるを励ます。しかし、あたるは暗くなかった。それどころか、少し良かったというような表情をしている。
「叶わぬ夢か・・・。確かにこの夢はかなえられねえな」
「ダーリン?」
ラムがあたるのぼやきが心配になったのか、あたるに歩み寄る。あたるは自分の前に立ったラムをみあげた。
「ラム・・・。彰の答えやっと解った気がする・・・。俺なりに答えを出してみた・・・」
「・・・、どんな答えだっちゃ?」
ラムはちょっと間をおいて返事をする。
「おれな、去年の秋にしのぶにな、黒川さんに会えばっていわれた。黒川さんのあの言葉が本当は俺の事を思ってくれた言葉かどうか自分で確認してこいって・・・。
 正直おれ怖かった。けど、野球部に戻ることだけでも伝えとかないとと思って、黒川さんの家に行ってみたら・・・」
時は約一年前、あたるがルパの家を訪ねた日にまでさかのぼる。
〜続〜







Page 7 [Page End]
戻る
Page: 01 02 03 04 05 06 07 08