高校野球編:第三話 最初の挑戦・最後の挑戦(中編) (Page 5)
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鬼のような目でバッターボックスをにらむと相手バッターは少し怖じ気づいた。
しかし、力みすぎたあたるはいきなりデッドボール。相手バッターはその場で蹲った。
「あれ?」
あたるは笑うほか無かった。ファーストからはメガネの殺気が感じられた。
『なんと、いきなり超大ピンチの友引高校!迎えるバッターは四番の黒川!大会ホームランを四本打っている
 恐怖の四番です!さあ、この超大ピンチをどうする!?友引バッテリー!』
内野陣があたるの立つマウンドに集まった。
「くそ、いきなり大ピンチか・・・」(コースケ)
「すまん。おれがボールを握り損ねて・・・」(パーマ)
「俺は悪くない」(メガネ)
「・・・」(あたる)
「無死満塁。一点覚悟でいくか?」(コースケ)
「それは遠慮する」(カクガリ)
「俺もだ」(メガネ)
「点取られたら面堂みたいに面倒だからな」(チビ)
「チビ、くだらん洒落で緊迫感を和らげようとしたって無駄だ」(メガネ)
チビは誤魔化すように笑った。その光景を見たコースケはフッと笑って、あたるの肩をポンと叩いた。
「じゃあ、無失点でよろしく」
そういうと各自自分のポジションに戻った。
「コースケ・・・」
あたるが戻ろうとするコースケを呼び止めた。
「・・・、いや、なんでもない」
「すまんが、耐えてくれ」
「わかってる」

 
友引ベンチ
「勝負する気やな」
「そうみたいだっちゃね」
「ここで打たれたら、流れは悪くなんで・・・」
「でも、逆に無失点に抑えたら、こっちに流れがくるっちゃ」
緊張しながらも親父は何とか笑みを作って見せた。ラムはスコアブックの紙を握りしめた。紙がしわくちゃになって、手汗でふやけるほどに。
(頑張れ・・・。ダーリン!)



『さあ、各ポジションに戻る友引ナイン!このピンチを乗り切る作戦はあるのでしょうか!?』
バッターボックスにはもちろん彰が立っている。あたるは顔が見えないように帽子の鍔で表情を解らないようにした。
「いきなり嫌なやつだな・・・」
そう言って、懇親の一球を投げた。そのボールを見た彰は何かに気付いた。
「ストライーク!!」
彰はバットをぴくりとも動かすことなく見逃した。
『今の球は甘い球でしたが予想外だったのか、黒川、バットを振りません』
彰は
キィーン!
バットにあたった小気味よい音と共にボールはあたるの足下めがけ高速で飛んできた。
『あぁ!危ない!』
しかし、
スパァーン!!
あたるはグラブを足の後ろに持ってきて、足を上げるとバランスを崩しながら、ぎりぎりのところで高速ボールはグラブに飛び込んだ。
『と、取ったァ!まさに神業です!』
バランスを崩したものの、あたるは転びながらボールをサードに投げた。全ランナーがヒットかと思い、飛び出していたのだ。
『諸星!サードに送球!』
戻ろうとするランナーをアウトにした後、パーマすかさず、セカンドに送球これもアウトだった。
『と、トリプルプレー!!なんとこの大ピンチをこれ以上にない最高の形できりぬけました!友引高校!試合は一回の裏に入ろうとしています!』
ベンチに帰ろうとする彰の表情には驚きも悔しさもなく、無表情でベンチに戻った。そこで、彰は監督と何かを話している様だが、
口の動きだけでは解らない。自分もベンチに戻りながら、その光景を見ていた。
「一回の裏、友引高校の攻撃は・・・、一番、センター。藤波くん」
「ストライク!バッターアウト!」
「二番、ショート、因幡くん」
『因幡、セーフティバントを試みますが、キャッチャーの稲谷慌てずファーストに送球アウトです!ツーアウト、ランナー無し!』
「三番、ピッチャー、諸星くん」
『バッティングにも定評なる諸星ですが、三振です。三者凡退で二回の表へとつづきます』

ベンチ
「流れをなかなか引き渡さんっやっちゃな」
親父が感心しながら呟いた。
「そりゃあ、そうですよ。なんてったって相手はあの一刻商。しかも去年のチームとはまるで別ですよ」(コースケ)
「相手を褒めてどないすんねん!?」
親父はコースケの両頬をつまみ上げた。コースケは痛がりながらも苦笑いし、その光景を見てナインはなんとなく和やかになる。
「・・・」
しかし、その場の雰囲気に似合わない者が1人いた。あたるだ。一刻商の攻撃が終わってから何処か重い気分だったのだ。
「なんだ、なんだ?その重苦しい顔は元気ださんかい」
コースケはあたるの背中を軽くポンと叩いた。しかしあたるは何故か答えない。
「打たれた・・・」
「何言ってんだ?両軍ヒットは一本も出てないぞ」
「違う!彰が打った球は確実に芯に捉えられていた」
「でもホームランじゃなかったぜ?芯に捉えられてもアウトにしたから結果オーライじゃないの?」(チビ)
「いや、アウトにしたんじゃない。アウトにして貰ったんだ」
「それって、あいつからお前に返してきたって事か?」(パーマ)
「そうだ・・・」

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