時は夢のように・・・。「第三話(其の壱)」 (Page 1)
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 時は夢のように・・・。
 第三話『噂は色々ありますが。』(其の壱)

 戸惑いと緊張(?)のうちに数日が過ぎた。
 春休みが終わって、俺とラムは奇跡的と言うべきか、めでたく進級した。待望の高校三年生だ。
 クラス替えとかしてないから、気分的には二年の時とあまり変わってないけどね。

 4月4日 金曜日 AM8:15。
 玄関の床に座って、慌しく靴紐を結んで、勢い良く駆け出す。
あたる「行ってきまーーっす!」
ラム「行ってきまぁす!」
 50メートルくらい走ったところで、ふと、何やら耳に届いたんだ。

「行ってらっしゃーい!」

 後方から黄色い声が俺たちに向けられていた。
 振り返ると、唯が手を振って俺たちを見送っていた。
ラム「行ってくるっちゃ〜〜っ!」
 大きく手を振って答えるラム。
あたる「おっと、こうしちゃいられん。遅刻しちまうぞ、ラム。」
ラム「今日遅刻すると放課後の掃除当番だっちゃよ!」
あたる「掃除当番なんて、ンな面倒な事やってられっか。走るぞ! 加速装置!」
ラム「だっちゃ!」
 きびすを返すと、二人は全速力で駆け出した。
 しかし、しばらく走るうちに忘れ物に気づいた。
あたる「いかんっ! 弁当忘れたっ!」
ラム「お弁当なんかもうあきらめるっちゃ! 今から取りに戻ってたら間に合わないっちゃよ!」
 始業まであと15分も無かった。学校に到着するまでに要するギリギリの時間だ。自宅に戻るまで5分で、残り10分では到底間に合わ
ない。
ラム「ウチのお弁当分けてあげるっちゃよ。」
あたる「ぬぬぬぬ・・。ええーーい、ままよっ!!」
 きびすを返すと、全速力で自宅へと足を向けた。
ラム「あっダーリン! 遅刻しても知らないっちゃよ! もうっ、馬鹿なダーリン。」
 ラムは矢の様に飛び上がると、上空まで舞い上がった。
ラム「ダーリン! 先に学校に行ってるっちゃよーーっっ!!」
あたる「分かったーーっっ!!」

                            *
自宅。
 自宅に到着すると、勢い良く玄関のドアを開けた。
 ドアを開けるなり焦った。母さんが、待っていたかのように仁王立ちしていたのだ。
母「そろそろ戻ってくる頃だと思ってたわ。はい、お弁当。」
あたる「サンキュー! さっすが母さん! 分かってるぅー。」
母「何年あんたの母親やってると思ってんの? いいから早く学校行きなさい! 居眠りしてないで、ちゃんと授業受けてくるのよ!」
 ちっ、いつもいつも一言二言多いんだから・・。
 しかし、弁当を受け取ったはいいが、あと10分足らずでは間に合わん。流石の俺の脚力でも不可能だ・・。
 こうなったら、諦めてゆっくり歩いて行くとすっか。
 少々ヤケクソになりながら、覚悟を決めた。
あたる「(掃除当番でも何でもやってやらぁーっ。)」
 振り返ってドアを開ける。
                            *

 玄関前には、ピカピカに磨き上げられたバイクが止まっていた。唯が大切にしているバイクだ。
 そのバイクを見て、閃いた。遅刻せずにすむかもしれない・・・。
あたる「バイクか・・、バイクねぇ・・。」
唯「あらっ、あたるさん。どうしたの? 学校行ったんじゃなかったの?」
 庭の方からヘルメットを抱えて唯が歩いてきた。
あたる「えっ? ああ、ちょっと忘れ物してね・・。」
 唯は赤と黒で彩られた皮のつなぎを着ていた。ちょっと小さめなのか、ぴっちりしてて、唯のボディラインがくっきりと見て取れる。
 ごくっと唾を飲んだ。唯ちゃん、ラムに負けてないかも・・・。
あたる「・・・・・。」
唯「なぁに? あたるさん。」
 名前を呼ばれてハッと我に返った。あまりの魅力に、つい見とれてしまっていたのだ。
あたる「あ・・い、いやぁ、別に・・・。あの、お願いがあるんだけど・・。」
唯「お願い? んー・・、聞いてあげたいんだけど、私もこれから仕事だから・・。」
あたる「いやいや、大したお願いじゃないんだ、ただ、仕事に行くついでに、僕を学校まで乗っけてってもらえれば・・。」
 バイクならなんとか間に合うかも知れない。残りあと7分少々。いや、バイクでも厳しいか・・。
唯「でも、職場は学校とは反対方向だし・・。」
あたる「分かった! 後でお好み焼き奢ってあげる!」
唯「えっ? マジっ?! んん〜〜♪ そう来られたら断れないわね〜♪」
 にんまりと微笑んで、「待ってて」と言って、小走りで庭に戻って何やら抱えてきた。
 そして、「はい」と渡されたのは、フルフェイスのヘルメットだった。
 唯は意気揚々とバイクにまたがって、キーを差込んだ。
あたる「あと5分ぐらいしかないけど、間に合うかな?」
唯「楽勝♪」
 またまたにんまりと笑い、ピースする。
唯「さぁ、乗って。ちゃんとヘルメットかぶってね。」
 そう言うと、サラサラの髪の毛を手馴れた手つきでまとめ上げてヘアピンで止め、ヘルメットをかぶった。
あたる「あ、ああ。」

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