時は夢のように・・・。「第五話」 (Page 1)
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 時は夢のように・・・。
 第五話『諸星あたると秘密の部屋』

 5月1日、日曜日。ゴールデンウィークは始まったばかり。
 唯とラムは、朝早くからバタバタしてた。
 唯とラムと沙織ちゃん三人で計画している旅行の準備に追われているのだ。
 ラムは朝食も落ち着いて食べていられない風で、唯を「はやくはやく」って急かしてる。
 今日はいつものビキニスタイルじゃないから、雰囲気がどことなく新鮮だ。
 ラムは、ネックとセンターにYを描くようにタックとレースがあしらわれた真っ白なシャツ。胸元に配された三つのボタンがさりげない
けど、しっかりポイントになっている。珍しくスカートだ。黒をベースにして、規則正しく並んだ水玉模様、膝上2センチってトコか。こ
れはこれでけっこう似合ってる。
 唯が着ているのは、春らしい白のキャミワンピースで、淡いピンク色した小さな花の柄だ。その上に水色のカーデガンを羽織っている。
 ご飯を口に運びながら、唯は振り向いた。
唯「ラムちゃん、京都は逃げてかないから、朝ごはんはちゃんと食べて。お腹すいちゃうよ。」
ラム「でも、沙織との待ち合わせ時間は9時半だっちゃ。」
 しきりと時計を気にしているラム。時計は9時を少しまわったところだ。
唯「大丈夫よ。まだ20分もあるじゃない。」
 お茶碗をテーブルに置いて、お茶を一口すする。
ラム「でも、沙織の家までけっこう遠いっちゃよぉ。急がないと遅刻しちゃう!」
 ちょっとイライラ気味なラム。そんなラムをよそに、唯はのんきにお茶をすすってる。
唯「もう少し平気よ。だからラムさんもご飯食べて。」
 俺は唯のその自信の理由が分かった。唯にはあのバイクがあるからだ。以前、一度だけ学校に遅刻しそうになって、送ってってもらった
ことがあったんだ。その時のことは、思い出しただけで乗り物酔いしてしまいそうだ。
あたる「そうだよ。時間の事は気にしないで、朝飯くらいはちゃんと食え。」
ラム「もうっ、ダーリンまで唯と一緒になって・・。遅刻して沙織に怒られても知らないっちゃよぉ!」
 ラムはぷーっとホッペを膨らませて食卓について、ご飯とおしんこを口に入れた。
あたる「それにしても・・・旅行だなんて、俺は聞いてませんでした!」
 ぶつぶつ文句をこぼすと、唯は首を竦めて、ニコッて笑った。
唯「沙織ちゃんとの旅行はずっと前から約束してたんだ。こちらにお世話になり始めて間もないし、・・・言いそびれちゃって。」
ラム「ウチもなんだか言いづらくて・・、ごめんね、ダーリン。」
あたる「・・・もういいよ、それは。だから唯ちゃん、帰ってきてからデートしてくれるって約束は・・。」
ラム「誰も約束してないっちゃ。」
 ラムの冷たい突っ込みに、二の句が告げなくなってしまった。
 唯はそんな俺を見て、けらけら笑った。
唯「ふふっ・・。でも、京都なんて高校生以来、せめて四泊五日くらいしたいなぁ。」
あたる「ふーーん・・・女の子って、京都が好きなんだな。俺のクラスの娘も、女の子同士で旅行したいなんて言ってた。」
唯「だって京都って素敵なんだもの。中学の時に修学旅行で行ったけど、あまりゆっくり回れなくて、なんか残念だった。三人で、好きな
  場所を巡って、お買い物して・・・。」
ラム「ウチはね、ウチはね♪」
 と、二人はうきうきと話す。
 まったく女って、どんなときでも買い物ははずさないよなあ。
あたる「二人とも、旅行だからってフラフラ浮かれないように!」
ラム「何言ってるっちゃ?! ダーリンこそ、ウチが留守なのをいいことに浮気なんかしようものなら、どうなるか分かってるっちゃね!」
 すごい勢いで俺につめよるラム。ちょっとたじろいでしまう。
 俺の気も知らないで、唯はクスクス笑う。唯とラムと沙織ちゃんの三人で旅行だなんて、俺が旅先で出会う男だったら、絶対放っておか
ない。そう思うから言っただけなのに。
唯「あたるさんは、連休どうしてるの?」
あたる「がーるはん・・。」
 ついぽろっとガールハントと言うところだった。でも、ラムにギロッと睨まれてしまった。
 頬を冷や汗がつたっていく。
あたる「・・・た・・たまには家でじっくりと読書に励むのも・・いいかな・・。」
ラム「それもありえないっちゃ。」
 つんけんしてるラムを、横から唯がなだめる。
唯「まぁまぁ、あたるさんを信じよぉ。さぁて、そろそろ出かけましょうか。ハガキ出すわね、お土産も期待してて。」
 食事を終えた二人は、荷物を持って庭に出た。
 庭では母さんが洗濯物を干してて、声をかけてきた。
母「もう出かけるの、気を付けて行くのよ。連休中あたる一人だけだと、心細いわね・・。」
あたる「どーせ俺は役立たずですよっ!」
 母さんの言葉にもだが、それよりも蔑んだ目つきには、無性に腹が立った。
 俺はむくれあがって、そっぽを向いた。
唯「行ってきます、おば様。4〜5日留守にしますけど、帰ったらきちんとお手伝いしますから。」

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