時は夢のように・・・。「第七話」 (Page 4)
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 唯ちゃん、きみが雷が苦手なのはわかってるんだ。さあ、この胸に飛び込んでおいで。
 轟音の余韻が響く中、俺は待った。
 しばらく待った。
 腕に伝わってくるはずの感触は、一向にない。
 ・・・おかしいなぁ?
 しびれを切らして、薄目を開けると、
「どうしたっちゃ、手なんか広げて?」
 俺の背後から、聞き慣れた声が茶の間に広がった。
 振り返ると、瞬きしながらラムが不思議そうに、こっちを見つめている。
 ・・・クッ!
あたる「いやあ、ラジオ体操でもやろうかと思ってね! 帰ってたのか、ラム。」
 手のやり場に困った俺は、立ち上がると、背伸びの運動ってやつをやりはじめた。
 ああ〜、どんどん健康になっていくぅ〜!
ラム「?」
唯「おかしなあたるさん?」
 おいっちに! おいっちに! ・・・なにやってんだろ俺、泣けてきたよ・・。
「久しぶりやな、あたる。しかしいつまでたっても、おんどれのアホはなおらんようやなぁ。」
あたる「むっ、その声は・・。」
ラム「そうそう、テンちゃんが通ってる小学校、今は夏休みなんだっちゃ。」
 ジャリテンが戸の影から、ひょっこり顔を出した。
あたる「でたなジャリテンっ! んんっ? 夏休みって・・まだ六月だが・・。」
ラム「鬼星の小学校の夏休みって、三ヶ月間あるっちゃよ。6月7月8月はずーっと休みだっちゃ。」
テン「そーなんやぁ〜。せやからなぁ、夏休みの間だけ地球に遊びにきたんやぁ。」
 なんじゃそりゃ。さしずめアメリカの大型サマーバケーションだな。
 唯はラムたちに目配せすると、
唯「おかえりなさいラムさん。テンちゃんお久しぶりね。」
テン「わーい! 唯ねーちゃんやぁーっ!」
 ジャリテンは、思いっきり唯の胸に飛び込んだ。
 くぅぅそぉぉーーっっ!! ジャリテンのヤロー、帰ってきてイキナリ子供の特権を乱用しやがってっ!
 俺の拳にギリギリと力が入る。顔も幾分ひきつっているはずだ。
 そんな俺を横目に、ラムは俺の隣にちょこんと座った。
ラム「ただいまダーリン。わぁいっ♪ 今日はビーフシチューだっちゃね。おいしそーだっちゃ〜♪」
唯「そう、腕によりをかけて作ったんだから。冷めないうちに食べてね。テンちゃんも、ねっ。」
 唯はそう言うと、ジャリテンをテーブルの上に座らせて、シチューを二人分皿によそった。
 二人には呆れられるわ、邪魔者(ジャリテン)は帰ってくるわ・・・ロクなことはなかった。

                            *
 夜も更けて、午後11時過ぎ。
 俺たちは、ときおり雷鳴が響く二階の廊下にいた。
唯「台風、ひどくなってきたね。」
 突き当たりの窓から、外の様子を窺い、唯がこぼした。
 青い布地に、氷の結晶がちりばめられたパジャマ姿だ。憂いを含んだ瞳で、不安そうに窓の外を見ている。
 強い雨脚の音は、家の中にもライブで伝わってきていた。バサバサってざわめきは、庭の広葉樹の悲鳴だろう。窓越しに、何か白い物が
吹っ飛んでいくのが見えた。取り込み忘れた近所の洗濯物か・・・でなきゃコンビニの袋だな、あれは。
あたる「ま、諦めるしかないよ。天気予報だと、今晩から明日の朝までが山場って話だし。」
 心配している俺たちとは対照的なのは、この二人。
ラム「また今年も台風だっちゃーっ♪ きゃっほーう♪」
テン「おもろいなぁーっ。きゃはははは・・♪」
 台風のどこが面白いのか・・。ま、毎回のコトだからな、もういいや。
唯「例年にない勢力ってコトだったけど・・・大丈夫だと思う?」
あたる「思うって・・・なにが?」
唯「この家。」
あたる「は?」
 またおかしなことを、と思っていると、
唯「ほら、ニュースでやってたでしょ? アリゾナで発生した竜巻が、民家二十棟・・。」
あたる「台風と竜巻は違うでしょ。」
唯「でもでも、同じ風の・・。」
あたる「バカ言ってないで寝よう。じゃないと・・・襲っちゃうぞ?」
 俺は両手を振り上げ、唸ってみせた。
 唯は少し赤くなって、むーっ、とおれをねめつけると、
唯「あたるさんのエッチ! 知らないっ!」
 誰が見ても冗談なやりとりだが、来た。
 ドバババババッッ!!!
あたる「どぎゃぁああーーーっっ!!!」
ラム「ダーリンっ! 唯に手を出すんじゃないっちゃ!」
テン「唯ねーちゃんに悪さしてみぃ! ワイが許さへんでぇ!」
あたる「やかましいっ! お前らも早く寝ろっ!!」
 三人はむくれっ面で唯の部屋に消え、思い切りドアを閉めてしまった。
あたる「おやすみ〜。」
 揺れる『ユイ』のプレートを見ながら、俺は苦笑した。あくびをすると、焦げ茶色の身体を引きずりながら自分の部屋に入って、ドアを
閉めた。
 久しぶりの我が部屋は・・・おかしな話だが、出て行く前より、少し綺麗に見えた。
 ま・・まま、まさか、唯ちゃんが俺の部屋を掃除してくれたのか?
 俺は咄嗟に、部屋のいたるところに存在しているエロ本を確認してまわった。
 どれも、調査が入った形跡はない。

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