時は夢のように・・・。「第七話」 (Page 5)
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 ほっと安心した途端、長旅の疲れがどっと浮上してきた。布団を敷くと、すぐに部屋の明かりを消して、カーテンを閉めるのも面倒臭く
、俺は布団にひっくり返った。
 意識が飛ぶ実感も無いうちに、俺は寝ていた。

                            *
 コンッ、コンコン、コンッ!
 コンコンコンコン、コンコンッ!
 あれから何分たっただろう・・・ストレスが溜まったキツツキの音みたいな不協和音が、俺の意識を戻した。
 ・・・なーんだ、この音は?
 薄目で天井を見つめながら、俺は考えた。
 何時間寝ていたかわからないが、とにかく暗い。
 そこでさらに、コンコンコン。
 コンコンコンコンコンコンコンコン・・。
 その音がドアのノックだということ気付いたのは、ひとしきりイラついた後だった。
あたる「ったく、誰だよこんな真夜中にぃっ!」
 扉の向こう側の人物に毒づきながら、ドアを引っ張った。
 ふわっと、青い影が突っ込んできたから、俺は驚いた。
 青い影は、俺の胸の中で顔を上げると、
「ご、誤解しないでよねっ! お、音は平気なんだからねっ!」
あたる「ゆ、唯ちゃん?!」
 青く見えたのは、唯のパジャマだった。真っ青な顔で、ブルブル震えている。
 しかし・・・さっきの妙なセリフはなんなんだ?
 その後すぐ、ラムとジャリテンが顔を覗かせた。
テン「どないしたんやぁ、唯ねーちゃん?」
ラム「唯ったら、急に部屋から飛び出したりして、びっくりするっちゃよ?」
 窓から稲妻の閃光がさしたのは、そんな時だった。
 面白いことは、それから起きた。
唯「やーーん! もうやだぁ!」
 唯は悲鳴を上げて、俺のシャツをギュッ、しがみついてきたのである。
 ・・・そういうことかい。

                            *
 数分後・・・カーテンを閉め切り、照明もつけた部屋で、俺たちは膝をつき合わせた。
 ジャリテンは、口を大きく開けてあくびをした。ラムは、きょとんとした表情で俺たちの顔を目配せしている。唯はというと、少し俯い
てたが、申し訳なさそうに上目使い。覇気がない。
あたる「・・・で、雷が怖くて、落ち着いて寝られない、と?」
唯「ちっ、違うもんっ!」
 青白い顔のまま、唯は顔を上げると、
唯「おっ、音は平気なんだからっ! ピカッていうのが怖いだけなんだからっ!」
 大きい目はウルウル。今にも泣きそうだ。
 憮然とした態度を決め込みながら・・・唯には悪いが・・・俺は内心、爆笑していた。
 うひひーっ、なんだよ、それ? ゴロゴロってのは平気なのに、ピカッてのがダメ? 常識で考えりゃ、前者の方を怖がりそうなもんだが
、やっぱり変だぞ、唯って!
 俺は湧き上がる笑いと格闘しながら、
あたる「それで、俺にどうしろって言うんだ?」
唯「べ、別に何も。あたるさんは寝てていいわよ。」
 この期に及んでも気丈を装うのは、さすがにプライドの高い唯だが・・・。
あたる「じゃあさ、この手、離してくれる?」
 と、俺は自分自身のわき腹を指差した。
 先ほどから彼女の細指が、俺のシャツの裾と、ラムのビキニパンツの縁をしっかり掴んでいたのだ。しかもよほど力を込めているらしく
、手の皮膚が、真っ白くなっている。
 さて、どう出るか、と思っていると、唯はへの字口で俺を見つめて、
唯「・・・やだ。」
 あらら。
ラム「離してくれないと、ウチら寝れないっちゃよ?」
唯「・・・このまま寝て。」
 ダメだ、もう限界だ。
 俺は、クックックッ、とやりはじめてしまった。
唯「もっ、もう、馬鹿にしてー! あたるさんは男の子なんだからね、男の子は、女の子を守ってくれなきゃダメなんだからね!? ちょっと
  ぐらいわがままきいてよ〜!」
 俺の腰の辺りをグニグニ押しながら、唯は懇願した。
 唯がこんな態度をとるのは珍しい。実際に俺より2歳上ということもあって、普段は少しお姉さんぶっている唯だが、この駄々のこね方
を見ると・・・よほど怖いんだろうな。ラムの電撃リンチの時に発する閃光には全く平気っぽいのに・・・ほんと変だな。
あたる「わかったわかった。じゃ、台風が過ぎるまで、俺も起きてるから。それでいいだろ?」
ラム「ダーリンが起きてるなら、ウチも付き合うっちゃ。」
唯「ほ、本当? ホントに?」
あたる・ラム「ホントホント。(だっちゃ。)」
 できるだけ爽やかな笑みを心がけ、俺たちは頷いた。
 それが効いたのか、彼女は、ホッと息を吐き、
唯「よ、よかった〜!」
 と、その場にグニャグニャっと突っ伏してしまった。
 なるほど、玄関でやってたのも、これだったのか。
あたる「唯ちゃ・・。」
ラム「弱味につけ込んで、デートの申し込みはありえないっちゃよ。ダーリン。」
 ここぞとばかりに俺が言う言葉を、ラムは即座に察知したようで、話し出してすぐにラムが突っ込んだ。
 グゥの音も出やしない。ラムって、ホントに俺のことが何でもわかるんだな・・。

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