時は夢のように・・・。「第九話」 (Page 10)
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 俺は、複雑な気分を通り越して、ちょっとだけ不機嫌になっていた。そっけない態度であいづちを打つ。
ラム「思い出になれば、それでオッケーなんだっちゃよ。」
 ラムは、俺を見てニコッて笑った。
 ラムの言葉に、俺は、さっき唯の言ってた言葉を思い出した。
あたる「ラム、さっき唯ちゃんが・・。」
 ラムに言葉をかけようとした時、俺たちの背後から、聞きなれた声がした。
「ラムちゃーんっ。ちょっと待ってよぉ。」
 女の子が小走りで近くまでやってくると、息を弾ませながら、顔を上げた。
 ぽっちゃり顔の、可愛いえくぼ。沙織ちゃんだった。
ラム「沙織〜、どうしたんだっちゃ?」
 まだちょっと息が細かいけど、ニコニコしながら沙織ちゃんが言った。
沙織「あのね、今夜、打ち上げがあるんだけど、来ない?」
ラム「ウチらも行っていいっちゃ?」
沙織「もっちろんじゃな〜い。」
 満面の笑みで、沙織ちゃん。
ラム「それじゃあ、お言葉に甘えてぇ〜・・。ダーリンは?」
 俺は、なんとなく気分が乗らなくて・・、無言で首を振った。 
ラム「そうけ? じゃあ、ウチと唯はちょっと遅くなるけど、火には気つけるっちゃ。」
あたる「わかってるよ。」
 俺は振り返って、帰ろうとした。
 するとまた、ラムが声をかけた。
ラム「あ、ダーリンっ。今日は、ウチにもいい思い出になったっちゃ。ありがと、ダーリン。」
 ラムは、俺を見ると微笑んだ。
 その笑みは、あの時の唯の笑顔とだぶって見えた。
 唯ちゃんも、ラムも、いつもと違う気がする・・・。
 ・・・俺の捉え方が変なだけだろうか? 色々イロイロあって、疲れてるだけかな・・。

                             *
 ところが、この懸念は、その日の内に決定的なものになってしまった。
 午後10時・・・俺はダンボールだらけの茶の間に寝転がり、荷物の隙間からテレビを見ながら、二人の帰りを待っていた。
 唐突に、玄関のチャイムが鳴った。
 ピンポーン。ピンポーン。・・・ピンポーン。
 ピポピポピポピポピポピポピポ・・・。
あたる「連射するなぁ!」
 慌てて跳ね起きると、俺は玄関に向かった。ただでさえ家の機能を満足に果たしてないのに、チャイムまで壊されたら、たまったもんじ
ゃない。
 ドアの鍵を開錠して、ノブを引っ張った。
 途端、闇から浮かび上がった人影に抱きつかれ、頬ずりされた。
「あたるふぅ〜ん、ふぉんばんにゃ〜!」
 ギョッとして見ると、えくぼの可愛い顔・・・スーツ姿の沙織ちゃんだった。
 さらに、後ろからもうひとり。いや、ふたりだ。
「ひょっほぉ〜、ひゃめれよ〜! わらしがさきらんらから〜!」
「さろり〜! ひゃめるっちゃろーっ。らーりんは、うりのらっりゃ!」
 ワケのわからんコトを言いながら、唯とラムが現れ、沙織ちゃんを押しのけるように抱きついてきたから、俺はびっくり。みんなの体重
が、まともにのしかかってきた。
 三人とも顔は真っ赤だし、むせ返るような匂い・・・。こりゃ、だいぶアルコールが入ってんなぁ? ラムはきっと梅干でもバカ食いした
んだろう・・。
あたる「ったく、しっかりしろよ。」
 すると沙織ちゃんが、不気味なほどフニャフニャした笑みを浮かべて、
沙織「わらひぃ、ほまふ〜! いひれひょ〜?」
 ・・・わたし泊まる、とでも言ってるつもりなんだろうな。
あたる「わかったよ、わかったから、おとなしくしてくれ! 近所迷惑になるだろ!」
ラム・唯・沙織「ひゃ〜い!」
 みんな一緒に返事してくれるのは結構だが、そのままバタンと倒れてしまったからたまらない。タイルの上で、三人とも、スヤスヤ寝息
をたてはじめた。
あたる「おいこら! こんなところで寝るなよ!!」
 揺さぶってみたが、効果はない。
 ・・・ったく、どんな打ち上げやってたんだよ〜?
 俺は頭をかきながら、ドアを閉めた。
 おかしな言葉を聞いたのは、その時だ。
唯「・・・思い出、いっぱいつくるんら・・・。」
ラム「・・・うん。それ持って、それ・・・持って・・・。」
 タイルの上で丸まって眠っているラムと唯が、会話してるみたいに言葉をリンクさせた。
 ふたりの閉じた目から涙を流し、呟いたのだ。
 心臓をナイフでひと突きにされたような衝撃を受けた俺だが、沙織ちゃんに目を移して、さらに度肝を抜かれた。
 ・・・彼女の頬にも、涙の跡がハッキリ残っている。
 目が赤いのはアルコールのせいだと思ったけど、どうやら三人で泣いてたらしい。それが酒の前か後かはわからないが、やっぱり何かあ
ったのだ。
 しかも、思い出だって?
あたる「・・・おい、ラム?」
 腰をかがめ、軽くつっついてみたが、反応はなかった。
 茶の間には三人で眠れるスペースはないし、玄関にほったらかしとくのも・・・、仕方ないので、俺が一人づつ、二階へ担いで上がるは
めになった。

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