時は夢のように・・・。「第九話」 (Page 9)
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ラム「だっ、ダーリン。あれって・・ひょっとして・・。」
あたる「どしたんだよ、ラム?」
 ラムが、何かを察知したように、目をパチクリしながら俺に耳打ちした。
 神父さんが二人に目配せし、
神父「ただいまより新郎 隼人 新婦 唯 の結婚式を執り行います。この結婚が・・・。」
 名前を告げられた時に、俺たちは、耳を疑うより愕然としていた。
 あの新婦って唯ちゃんだったのかぁ?! マジかよぉ?!
 それからは神父さんによる説法がしばらく語られ、
神父「それでは、新郎新婦に誓約をしていただきます。」
 神父さんが新郎に目配せした。
神父「新郎 隼人、汝この女子をめとり、神の定めに従いて夫婦とならんとす。汝、その健やかなる時も、病める時も、これを愛し、これを
   敬い、これを慰め、これを助け、その命の限り、固く節操を守らんことを誓うか。」
新郎「はい。誓います。」
 新郎は、ここぞのセリフをハッキリと答えた。
 俺は新郎の『隼人』って名前に聞き覚えがあった。でも、なぜか思い出せなくて・・・たしか・・・。
神父「新婦 唯、汝この男子に嫁ぎ、神の定めに従いて夫婦とならんとす。汝、その健やかなる時も、病める時も、これを愛し、これを敬い
   、これを慰め、これを助け、その命の限り、固く節操を守らんことを誓うか。」
唯「はい。誓います・・。」
 ちょっと俯いて、唯。
神父「お二人の誓いの印として指輪の交換を行います。お二人の誓いが、皆様の前で真実永久に守られますように、お祈りを致します。皆
   様、黙祷願います。」
 二人は向き合った。
 新婦は手袋をとった後、新郎が唯の左手をとり、薬指に指輪をそっとはめた。次は唯の番だ。
 唯の顔は、ベールで隠れてるから、緊張してる様子は見取れないけど、きっと緊張しまくっていることだろう。
 新郎がそっと左手を差し出す。唯は手をとり、薬指に指輪をはめた。
神父「それでは、結婚宣言を致します。 隼人と唯とは、神と会衆との前において夫婦たるの誓約をなせり。この男女の夫婦たることを宣言
   す。それ神の合わせ賜いし者は人これを離すべからず。」
 神父の宣誓が終わった。後は・・・。
神父「では、誓いのキスを・・・。」
 やっぱり、それだけは許さんぞ!!
 緊急臨戦態勢に入った俺は、タイミングを見計らって、唯奪還を狙った。
あたる「そんなこと絶対させんからな・・。」
ラム「ダーリン、なに考えてるっちゃ?」
 即座に作戦を弾き出し、逃げ道を見つけ、俺の足は今にも駆け出しそうになった。
 その時だ。
「唯ね、あの隼人先輩に告白したんだ。」
 俺の隣から、女の子の声がした。
あたる「な・・?」
 振り返ると、そこにはスーツ姿の沙織ちゃんが座っていた。いつの間に・・?
ラム「それって、この前の?」
沙織「そう。・・・振られちゃったけどね・・。あのコ、グズだからいつまでたっても先輩のこと忘れられなくて・・。いつもいつも、こ
   んな夢見てたんだって・・。だからね、今この時が一番幸せなんだと思う。あのコは今、夢の中にいるのよ。」
 沙織ちゃんは、すごく優しい瞳で、唯を見た。
あたる「あのヒトが、このまえ電話で沙織ちゃんが言ってた、唯ちゃんの憧れの人。」
 俺の臨戦態勢が、だんだん鎮まっていった。
沙織「唯はね、知ってたんだよ。自分が振られるってコト。自分で言ってたもの、『先輩は私を選ばない』って、『憧れは強いけど、憧れ
   は、憧れよ』ってね。だから、先輩に対して一歩距離を置いていたんだわ、これ以上踏み込まないようにって・・。ったく、グズな
   んだから。」
ラム「そんなこと言って・・。それでも、唯は告白したんだから、勇気あるっちゃよ。」
沙織「そうね、私がけしかけたせいかもしれないけど、最終的には、唯は告白できたんだから、グズなんて言ったら怒られちゃうね。」
 沙織ちゃんは、はにかんで言った。
沙織「あたるくん。今は、唯に夢を見せてあげて。お願い。」
あたる「ん・・うん・・。」
 俺は、再び、唯に目を向けた。
 新郎と唯が、半歩づつ歩み寄り、そして、新郎が唯のベールにそっと手をかけた。
 唯が一瞬、腰を落とした。新郎は同時に、ベールを唯の背後に捲りあげた。
 唯の顔が、今やっと、ハッキリと確認できた。
 ゆっくりと二人の顔が近づく、そして、新郎の唇がかすめるように唯の唇に触れ、離れた。
神父「どうかお二人は共に愛し合い、許しあい、重荷を分かち合っていかなる試練をも乗り越えて・・・。」
 この後も、模擬挙式は進行していったけど、あまり覚えていない。
 俺は、唯ちゃんの夢の中にいるのか・・・。
 とても言葉に表せないような、複雑な気分だった。

 模擬挙式は終わった。
 俺たちは、小さな小道を歩いていた。
 しばらく無言のまま歩いていたんだけど、俺の横で、ラムが、ぽつりとこぼした。
ラム「ウチ、唯の気持ちが、なんとなく分かった気がするっちゃ・・。」
あたる「ふ〜ん。」

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