時は夢のように・・・。「第九話」 (Page 6)
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 すごいこと言いながら、俺の頬をツンツンつっついてきた。
 い・・いかん・・。今まで封じられてた煩悩が暴れだしそうだ。頭が勝手に妄想を!
「あー! 赤くなった赤くなった!」
ラム「ダーリンっ!」
 もうダメだった。
 またも女の子たちがケラケラ笑う中、
沙織「もうやめなさいよ、シャレにならなくなくなるから! わたしが唯に殺されちゃう〜!」
 沙織ちゃんの悲鳴が、頭の中でこだました。

                             *
 それから十数分後、やっと解放された俺は、廊下に出たところの小広間で、椅子に腰かけていた。
 テーブルの対面に座っているラムの機嫌はすこぶる悪く・・・さっきから、じーっと俺をねめつけている。
 ・・・す、すごく・・・ものすごくラッキーだ。
 映像が、網膜に焼き付いてる。当分、楽しめ・・いや、悩まされそうだ。動悸が収まらない。
 うーん、でも困ったぞ。どんな顔で唯ちゃんに会えばいいんだ?
 ドアが開いたのは、俺が「むふふ」と含み笑いをした時だった。現れた人影は、スッと俺の右前の椅子に腰かけた。
 ふと見ると、唯ちゃんではないかっ!
 唯はこっちをチラチラ見ると、言いづらそうに、
唯「・・・見た?」
あたる「えっ? いや・・・まぁ。」
ラム「み、見えなかったっちゃよねーっ、ダーリン。」
唯「うそ・・、ぜっ、全部見えてたでしょ?」
ラム「そんなことないっちゃよっ、ねっダーリン。下着なんて見えなかったっちゃよねっ。」
 フォローをしてるつもりだろうけど、やっぱりダメだ。
 唯は、真っ赤になって顔を押さえ、
唯「やーん、やっぱり! もう最悪ぅ〜!」
ラム「おっ、落ち込まないでっ、その・・可愛かったっちゃよ!」
唯「可愛いって・・・ヤダ! そんなにハッキリ見えたの?!」
 弾かれたように顔を上げる唯。悲壮な表情だ。
あたる「えっ? いやぁ、暗くてそこまでは・・。」
ラム「そうそう、暗くてあまり見えてないっちゃよぉ。」
唯「ホントにホント?」
あたる・ラム「ホントホント。(だっちゃ。)」
唯「じゃ、じゃあ、それ信じるからねっ? それでいいよねっ?」
あたる「あ、ああ。それでいこう、それで。」
 会話としては、無理やりな持って行きかただったけど、俺たちは同時に胸をなでおろした。
 しばらく、静かな時間が過ぎていった。
ラム「・・・でも、大胆な衣装だっちゃね。」
唯「これでしょ?」
 恥ずかしそうに、スカートの裾をつまんでみせる唯。
唯「これね、沙織ちゃんが選んだんだよ。私たち、ブライダルフェアが開かれると、毎回こうやって催し物を出すの。入社して間もない若
  手が選抜されてね。今回はなににしようかって悩んでたら、沙織ちゃんが『メイド喫茶なんてどう?』って言ったの。そしたら、みん
  なすっごく乗り気になっちゃって・・。あ〜ぁ、せめてこんな服じゃなかったらなぁ・・。」
あたる「はぁ、それでキャバ系?」
唯「そうみたい。最初はみんなも嫌がってたのに、お客さん入ると、視線が気持ちいいなんて言い出すんだもん。でも私、恥ずかしくって
  ・・・早く時間にならないかなぁ。だいたいブライダルフェアでメイド喫茶って・・・全然場違いよね。」
 赤くなって、唯はタメ息をついた。
 俺たちは苦笑した。
ラム「でもまぁ、沙織はあんなだけど、ウチらにはいい思い出になりそうだっちゃよ。唯の頑張ってるところは話には聞いてたけど、実際
   見るのは初めてで、ホントに嬉しかったっちゃ。」
唯「そ、そぉ?」
 恥ずかしそうに瞬く唯だったが、俺が頷くと、んーっ、と背伸びした。
唯「・・・そっかぁ、思い出かぁ。だったら・・・いっかぁ。」
 そして俺たちを見ると、そっと微笑んだ。
 最高の微笑みを目の前にして何だが、俺は眉をひそめた。
 ・・・様子がおかしい。
 笑ってるのは本心かららしいけど、いつもとは何か違う。笑みの質が違うのだ。なにか隠しているのに、今は俺たちのために笑ってみせ
ている・・、そんな微笑だった。
 俺は、一週間前の電話を思い出した。それが原因じゃ?
あたる「あ、あのぉ・・。」
 俺は手を伸ばしたが、指をすり抜ける様に、唯は立ち上がった。
唯「じゃ、私戻るから。3時から中庭のチャペルで模擬挙式があるんだ。その準備にまわらなきゃ。あたるさんとラムさんも、是非見てっ
  てね。」
 それだけ言うと、唯はドアを開けて部屋の中に消えていった。
 閉められたドアを見て、俺は首を傾げた。
 ・・・考えすぎなんだろうか?

                             *
 唯と別れた後、俺とラムは、建物の中を散策した。
 三階立ての建物の中を、一階から隈なく歩く。
 一階には披露宴で食するコース料理の数々がずらりと並んでいて、和食・洋食・中華とバラエティーに富んでいた。その料理は全てバイ
キング形式の試食ができることになっている。唯ちゃんから貰った招待状はここで提示するものだった。

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