時は夢のように・・・。「第九話」 (Page 4)
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あたる「修行って、ムチャクチャな・・。」
 そう言うと、再びトレイが振り上げられた。
あたる「いやっ! ムチャじゃない! そうとも、沙織ちゃんは正しい!」
沙織「ちゃんじゃないでしょ、さんでしょ!」
あたる「はい、沙織さん!」
 慌ててさん付けに変えると、彼女は急ににっこりして、
沙織「わかればいいのよ、あたるくん。相変わらず可愛い〜!」
 と俺の頭をナデナデ。あ〜のぉ〜、ペットじゃないんですけどぉ。
 彼女の名前は、中山沙織。今さら語るのもなんだが、唯の大親友だ。ウチが半壊するまでは、ちょくちょく遊びにきてたこともあり、男
の俺からすると、沙織ちゃんと唯は友達っていうより姉妹に見える。なにしろ、泣くのも笑うのもふたり一緒、俺にとっては、頭が上がら
ない女の子だ。
 ま、唯を間に、今じゃ俺もラムもホントの仲良しになってんだけど、その分、ツッコミが激しくなったような気がする。遠慮がなくなっ
たのは嬉しいことだが、完全にしもべ扱い・・・トレイで殴るんだもんなぁ。
 やがて、沙織ちゃんはナデナデに満足したのか、ラムの隣に腰掛け、
沙織「ホントに久しぶりね、元気してた?」
ラム「久しぶりだっちゃね〜。ウチらはこの通りだっちゃよ。」
 ラムはちからコブを作ってみせた。ちからコブといってもほとんどできてないけど・・。
あたる「家は半壊したけど、元気だけがとりえだから。」
 すると沙織ちゃんは、なぜかほくそ笑み、
沙織「ふーん・・・じゃ、スケベ心も未だ旺盛ってワケね?」
あたる「え、ええっ!?」
沙織「その様子だと、バレてないと思ったんでしょ。あたるくんの視線、ちゃーんとお尻に感じてたんだから。ま、わたしのナイスボディ
   じゃ、無理ないけどね〜。」
 俺は絶句してしまった。完璧に読まれてる。
ラム「ダーリンっ!」
 ラムは目を三角にする。
 沙織はクスクス笑うと、スカートの裾をつまみ上げ、ピーンと脚をのばした。
沙織「よーし、じゃ、ついでだから、下着の解説でもしてあげましょうか?」
あたる「いいいっ!」
 沙織ちゃんの異様なテンションに気圧されて、俺は後じさった。
ラム「沙織も、ダーリンを挑発するんじゃないっちゃ!」
 ラムの怒りをよそに、沙織はじーっとこっちを見つめ、唐突に席を立った。ツカツカまわりこんできて、俺の前で止まったかと思うと、
一瞬ラムの目を見てニカっと笑い、
沙織「可愛い〜! ホントは純なくせに・・・あたるくんって犬みたい!」
 と俺の頭をギューっと、抱きしめてきたのだ。
 胸が頬に当たって気持ちいい・・。
 そんな極楽気分も束の間、目の前で、稲妻がほとばしると、
ラム「ダーリンっ! いい加減にするっちゃーっ!」
 ドバババババッ!!!
 胸ぐらを掴まれた瞬間、電撃が身体中を駆け巡った。
 効いたぁ〜・・。俺はばったりとうつぶせでぶっ倒れた。
沙織「うん! もう信じられないほど素直だし、期待通りのリアクションだし、素敵!」
あたる「・・くそぉ〜。俺としたことが不覚だ・・。」
 煩悩のスイッチにエラーが発生したのだ。沙織ちゃんって、可愛いけど、なんか苦手だ・・。
ラム「ダーリン、反省するっちゃ!」
 俺の背中にまたがって、ラムが言った。
沙織「ホッホッホ、ま、このくらいにしといてあげましょ。コーヒーと紅茶だったわね。待ってて。」
 笑いながら胸を張ると、沙織ちゃんはトレイを持って、カウンターの方に戻った。
 あ・・・行っちゃったよ。唯ちゃんを呼んでもらうんだったのに。
 仕方ないので、俺はラムと会話しながら、待つことにした。
 うーん、これだったら面堂たちと一緒にいたほうがよかったかな。
 そうだ、あいつらどこに座ってんだろ? 近くにいるはずなんだけど・・。
 面堂とパーマを捜そうと、俺は顔を上げた。
 囲まれていると気付いたのは、その時である。
 どこから沸いて出たのか、沙織ちゃんと同じ姿のウェイトレスたちが、俺たちのまわりに人垣を作っていたのだ。1人、2人、3人・・
・10人は下るまい。みんなウハウハの姿だ。それはいいんだけど、なぜか全員、俺たちを見下ろしてニヤニヤしてる。
「ねっ、このコたちなんでしょ?」
「沙織の話だと、そうみたい。」
「ふーん。女のコはすっごく可愛いね。」
「男のコは・・・びみょー・・・よね。」
「でも、結構いいカンジね、この二人。」
 どこか面白がってる黄色い声が、耳に届いた。
 値踏みされてるみたいで、俺は思わず身構えてしまった。
 そしてその時、人垣の後ろから、聞き覚えのある声が。
「ほらぁ、行きなさいってば。自分から呼んだんでしょ?」
「でも・・・恥ずかしいよ。こんな服だって聞いてなかったんだもん。バカだと思われちゃう。」
「な〜に言ってんのよ。その注文、誰からだと思ってんの? さっきから、何度も他のお客さんには見せてるでしょ。それともあの二人には
見せられないっていうの?」
「あう・・・! そういう意味じゃないけど・・・でも・・。」

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