時は夢のように・・・。「第九話」 (Page 3)
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あたる「う・・! そりゃそうなんだけどさ。」
 呆れたように言うパーマに、俺は口ごもってしまった。
 すると隣で、面堂が肩をすくめ、
面堂「わかっておらんな、パーマは。きっと唯さんが、僕たちにもって招待状をくれたのさ。本音を言えば僕たちはお邪魔虫なのに、彼女
   の手前、誘わないワケにはいかなかった・・・そんなところだろう、諸星?」
あたる「わかってるんなら遠慮しろよな〜。だいたいだな、パーマにはミキちゃんという立派な彼女がいるから、なんとなくわからないで
    もないが・・、なんで面堂がいるわけ?」
面堂「遠慮したいのは山々なんだが、今日に限って予定がなくてね。それに、僕自身の将来の参考にしようと思ったわけだ。じゃ、行こう
   か?」
 たれた前髪を手ぐしでかき上げながら、面堂は俺の肩を叩いた。パーマも偉そうに、うんうん頷いてやがる。二人ともいい気なもんだ。
 仕方ないので、俺とラムは余計な二人を引き連れ、唯のいるコーナーを捜した。
 唯から教わったコーナーは、3階の真ん中にあった。
 “MARIAGES”
 コーナーといっても、喫茶店みたいな感じだ。押し花で飾られたウェルカムボードが、入り口の横にかかっていた。
面堂「ふ〜ん。なかなかお洒落な雰囲気だな。」
パーマ「喫茶店っぽくて入りやすいでげすなぁ。」
 二人はすたすたと部屋の奥へ入っていった。
ラム「さっ、ダーリン入ろっ。」
 ひと呼吸ほど遅れて、俺とラムも部屋に入った。
 部屋の中は、うす暗くて、ムーディーな雰囲気だった。天井にあるスピーカーから、ジャズみたいな音色が流れている。
 左の奥の方にカウンターがあって、その端で、高そうなコーヒーサイフォンがコポコポ泡を立てていて、右側のガラスケースには豪華な
ケーキが、綺麗に並んでいた。
 部屋には、丸テーブルが数脚並んでいて、お洒落なテーブルクロスと同色のナプキンも添えられている。既にフォークやナイフ、スプー
ンなんかも置かれていた。
 カウンターの傍に、ウェイトレスらしい女の子が、3人ほどいた。なぜか、メイドさんの格好をしている。黒いミニのドレスに、白いエ
プロン。・・・俺には気付いてないようだ。
 メイド服の理由は謎だが・・・絶対ここはブライダルフェアの場所じゃないな。
 ワケのわからない場の雰囲気で、ひとしきり翻弄されたのち、俺たちは唯の姿を捜した。
 暗くてよくわからん。客席やカウンターに何人かいるらしいのはわかっても、それが誰なのかまでは確認できないのだ。・・・面堂とパ
ーマもいるはずなんだけど。
 声をかけられたのは、そんな時だった。
「いらっしゃいませ〜!」
 カウンターから、銀のトレイを抱えた女の子が小走りでやってきた。軽くおじぎする。
 暗くて顔がはっきりしないが、少なくとも唯じゃない。ひとまわり小柄だ。
「2名様ですか?」
あたる「えーっと・・・まぁ、そんなトコです。」
「じゃ、こちらです。」
 メイドさんが先を歩き、俺たちも後に続いた。
 ふと見て、驚いた。
 スカートの丈がやけに短くて、お尻と太ももの境目がギリギリ隠れる程度、角度によっては、歩くだけで下着が見えてしまうくらいだ。
 こっ、これは・・・!
「お席、こちらになります。」
あたる「はっ、はいっ!」
 いきなり振り返られて、俺は慌てて顔を上げた。
 逆さのてのひらが、隅のテーブルを指している。うながされるまま、俺は席に腰かけた。まだ心臓がドキドキしてる。
「メニューをどうぞ。」
あたる「ど、どうも。」
ラム「ありがとだっちゃ。」
 俺たちは、渡されたメニューを開き、目を通した。
あたる「ん・・と、コーヒーを。」
ラム「ウチ、紅茶下さいっちゃ。」
「コーヒーと紅茶ですね。」
 エプロンから用紙を取り出し、注文をメモる。
 ペンはすぐに止まった。
 俺はしばらく待った。
 なぜかこのコ、一向に去る気配がない。
 やがて、
「・・・それだけぇ?」
あたる「はぁ?」
 と、俺が見上げた時だった。
 トレイが俺の頭めがけて振り下ろされた。
 ハッとした俺は、白刃取りの要領で、トレイを受け止めた。
あたる「なっ、なにすんじゃい! いくら女の子でも奇襲するなんて・・。」
 トレイを押し返して叫んだ俺だが、相手を見て、言葉を失った。
 唯やラムより幾分大きめの双眸、可愛いえくぼ、気の強そうな口許、柔らかくウェーブのかかった長い髪・・・これらのパーツで作られ
た強気の美貌が、不機嫌を丸出しに、俺を見下ろしている。
あたる「さ・・・沙織ちゃん?!」
ラム「沙織〜っ!」
沙織「沙織ちゃんじゃな〜い!」
 そこでもう一度、トレイが降ってきた。
 今度は、動揺したせいか、白刃取りを失敗。ガツンときた。
 悲鳴をあげた俺をねめつけ、沙織は、
沙織「顔見るまでわかんないなんて、サイテーね! わたしのプリティ・ウォークを見れば、誰だか見当がつくでしょうに。修行が足りない
   わよ、あたるくん!」

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