時は夢のように・・・。「最終話」 (Page 10)
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あたる「急で悪いんだけど・・・ラムいるっ?」
ラン『い、いるけど・・・ちょっと待ってて。』
 やった・・・直感が的中した!
 ランの、どことなく訝ったような声の後、保留のメロディが流れてきた。
 俺はすぐにイライラしはじめた。ったく、誰だ、この妙なメロディを作ったヤツは? 俺の気持ちも知らずにテロレロと・・・本人がここ
にいれば、ブッ飛ばしてるところだ。
 ありがたいことにメロディはじきに終わった。
ラン『もしもし、お待たせ。』
あたる「あれっ、ランちゃん? ラムは?」
ラン『それが・・・ごめんなさい。ラムちゃん、出たくないって・・・。』
 受話器の向こうで、申し訳なさそうな声が言った。
 俺は焦った頭で考えると、
あたる「じゃ、じゃあ・・・ラム、傍にいる?」
ラン『え、ええ・・・。』
あたる「だったらさ、悪いんだけど、電話のスピーカー、オンにしてもらえる?」
ラン『えっ・・ええっ? 待ってダーリン。それはちょっと・・。』
あたる「頼む! 俺、本気なんだ! 生半可な気持ちじゃないんだ!」
 俺は受話器に叫んだ。
 しばらく間があった。
ラン『・・・うん、わかったわ。いいよ、もう言いたいコト言ってちょだい!』
 明るいランちゃんの声の後に、ノイズがひどくなった。スピーカーに切り替えた証拠だ。
 ここが正念場・・・俺は深呼吸した。
 次のセリフを絶叫するのに、思考らしい思考はしなかった。
あたる「今が“いまわの際”だっ! 好きだぜラムぅぅ! 好きだ好きだ好きだァァッ!」
 後ろで仏頂面してたおじさんはもちろんのこと、改札を行き来してた通行人までもがおかしなヤツでも見るような目つきでこっちを向い
たが、俺は構わず続けた。
あたる「いつも怒ってばかりで・・、料理も辛くて食えたモンじゃない・・・! どこが好きなのとか訊かれたけど、俺はそういうの含めて
    丸ごとラムが好きなんだ! 自分にいいトコ無いなんて考えるな! 理屈なんかどうでもいい、要は気持ちだろ?! この想いさえあれ
    ばどんな溝だって埋められる! 俺が埋めてやる! 少なくとも、俺にはその覚悟がある! ひとりでグチャグチャ悩むのもいいけど
    、そんなラムを好きな俺がいるってことも忘れるな! これがラムから告白された俺の返事だ!!」
 言いたいだけ言って、俺は待った。
 やがて電話の向こうで、
ラン『怒るで、ラム!! ダーリンにここまで言わせておいて・・・ええかげんにせぇよぉ! おんどれってヤツは!!』
 ランちゃんの怒声の後、しばらく間があった。
 受話器から漏れてきたのは・・・なんと嗚咽だった。
ラム『ごめんちゃ・・・! ごめん、ダーリン・・・。ウチ、ウチ・・・もうどうすればいいのかわかんないっちゃ・・・!』
 ラムの押し殺したような鳴き声が、俺の耳朶を打った。
 彼女の悩みの深さを、俺はこの時、初めてわかったような気がした。
 
 ちょっと間があり、次の言葉を話せないまま、電話は切れてしまった。テレカが使い切れてしまったのだ。
 受話器を電話に戻したと同時に、背後から甲高い音が駅の構内に響いた。
 フオォーーンッ!!! ウォンッッ!!!
 俺は慌てて振り返った。
 唯がバイクにまたがって「早く」ってな具合でアクセルを煽ってる。
あたる「唯ちゃん! そうか、唯ちゃんは俺を迎えに来てくれたんだ!」
 作戦ってこういうことだったのか・・。なんて悠長な考えを巡らしてる場合ではない。
 俺は唯のところまでダッシュすると、すぐさま、渡されたヘルメットをかぶった。後部シートにまたがって、シートベルトをする手もも
どかしく、俺は唯に合図した。
あたる「オッケーっ。」
唯「じゃ行くよっ。めいっぱい飛ばすから、バイザー閉めて。」
 唯は、ストップウォッチのタイマーをスタートさせ、アクセルを数回吹かしてクラッチを繋ぐ。
 ギギャギャギャギャギャッッ!!!
 タイヤが空回りしながら走り出し、アスファルトにはブラックマークがくっきりと残された。
 空転から一気に加速に変わる。
 俺は、強烈なGを身体に浴びながら、一路東京へ向かった。
 
                                *
 フォォーーーン・・。
 バイクのエギゾーストノートを聞き続けて二時間弱、俺たちは無事に友引町に到着した。
 目の前の高台に、丸みを帯びたピンク色の建物が、夜の町に悠然と浮かび上がっていた。
 
 ギギーーッキキキッ!!
 唯は、門の前でバイクを停めると、メットのバイザーを上げて、
唯「なんとか間に合ったようね・・。あたるさん、ラムさんをよろしくね。・・・私は先に家に帰るから。」
 ずっと運転していたせいか、唯の顔には疲れが滲み出ていた。
あたる「唯ちゃん、ありがとう。気を付けて帰って、俺もすぐに帰るから、ラムと一緒にね。」
唯「うんっ、待ってるから。じゃ、行くね。」
 バイクはゆっくりと走り出して、唯を乗せたバイクは、夜の闇に吸い込まれていった。

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