時は夢のように・・・。「最終話」 (Page 3)
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面堂「・・・ラムさんのことか?」
あたる「まあ・・な。」
 俺は視線を空に戻すと、頷いた。
面堂「泣き言をいう余力もなし、か。今までの問題とは質が違うようだな?」
あたる「ブライダルフェアの日に、ラムと唯ちゃんと沙織ちゃんが酔っ払って帰ってきたんだけど・・、三人して泣いてたみたいでさ。思
    い出って言葉を連発するから、おかしいと思って問い詰めたら・・・いきなり別れようって。ラム、俺を好きなのかどうか、わか
    らなくなったんだと。」
 俺は空を見つめたまま、自嘲の笑みを浮かべてしまった。
面堂「・・・効くな。」
あたる「・・・最高にな。前ぶれがなかった分、余計に。」
 俺は目を閉じ、頭を振った。
あたる「嫌われるのは・・・イヤだけど、しょうがないって部分もあるさ・・・! 他の男を好きになったんなら、納得できないコトもない
    ・・・! でも・・、好きなのかどうかもわからなくなったって言われちゃうとさ・・、何もできないだろが・・!」
 握りしめた拳を、欄干に押しつけた。
面堂「・・・ま、きみの悩みはわかった。」
 面堂が、まるで突き放すように言った。
 その口調が、余りにも冷たかったので、思わず俺は顔を上げた。
 面堂は不気味なほど冷淡な目つきで俺を見下ろし、
面堂「でも・・・唯さんの立場はどうなる?」
あたる「・・・なに?」
面堂「心配してる唯さんの気持ちはどうなる? キミにはわからないのか?」
あたる「待て、どういうことだ?」
面堂「やはり、キミにはわからんようだ・・。キミが原因なんだよ、キミのそれが! 惚れた相手がタメ息をついていれば、誰だって心配に
   なる! そんなこともわからないほどバカなんだな!」
 茫然とする俺をみながら、面堂は吐き捨てるように続けた。
面堂「まったく、お笑いものだな、唯さんは! キミはラムさんとの関係に頭を悩ませ、唯さんはそうと知らずに・・・いや、きっと見当は
   ついてるんだろうけど・・・そんな諸星を見て、さらに悩むことだろう! どうだ、こんな笑い話はないと思わないか? 結局、唯さ
   んは自分の恋敵のために悩んでるんだからな! ええっ? どうだ諸星?! 唯さんは笑い者だろう?!」
 凄まじい形相で、面堂は俺をねめつけた。
 口ではお笑いなんて言っても、怒っているのは明らかだった。
面堂「ま、恋愛沙汰にはトラブルばっかりなキミだ、どうするのかと思って傍観してた僕だが・・、ここまで来ると、さすがに我慢しかね
   る! キミはいったい何様のつもりだ?! ラムさんをほったらかしにしておいて、身近に好意を抱く娘ができた途端、二股かける大バ
   カになったっていうのか?! 急に女を自由に選べる身分になったっていうのか?!」
あたる「だって・・、俺にはラムがいるし・・・それは唯ちゃんだって知ってるコトで・・・。」
面堂「なんだそれは? ふざけるのもいい加減にしろ!」
 戸惑う俺を、面堂が一喝した。
面堂「唯さんはストーカーのたぐいじゃないんだぞ!! キミとラムさんの関係を知ってても、ハッキリと断らなければ、脈があると思って期
   待する! 少なくともそれくらいの権利は、唯さんにもある・・・そう、たったそれだけだがな! それがどういうことか、キミには
   わからないのか?! 諸星、キミは唯さんを飼い殺しにしてるんだぞ! 淡い期待を抱かせてな!」
あたる「ま、待てよ・・! 俺は、俺は別に、そんなことしてるつもりは・・・。」
面堂「ほぉ、じゃ、なにか? 唯さんは、ラムさんにフラれた時の保険だとでも? それともラムさんが保険か?」
あたる「違う!」
 俺は目を閉じて叫んだ。
あたる「絶対に違うぞ! そんな酷いこと、考えるわけないだろ! 唯ちゃんはそんなんじゃない!」
面堂「ほほぉ、だったら、どうしてハッキリさせない?」
 皮肉っぽく、面堂。
 俺は、顔を背けてしまった。
あたる「そ、それは・・・。」
面堂「唯さんを傷つけるのが怖い・・か?」
 俺の心を見透かしてるみたいに、鼻を鳴らして、面堂は吐き捨てた。
 完全な図星だったが、俺は面堂を睨みつけてしまった。こいつにそこまで言われる筋合いはない、そんな風に、心のどこかで思ってたん
だろう。
面堂「なんだ、その目は? おまえにそこまで言われる筋合いはないって顔だな?」
あたる「う・・・!」
面堂「では、もっとハッキリ言ってやろう。傷つけるのが怖いだと? 笑止! そいつは自己弁護だな、問題のすり替えもいいところだ! 言
   い訳も甚だしい! 違うな、キミは唯さんを傷つけるのが怖いんじゃない! そうすることで、後味が悪くなる己・・・それがイヤな
   んだ! 誰かをフッてしまった自分になるのがイヤなんだよ! 誰も傷つけないやさしい諸星あたるでいたいんだ! そう、結局のとこ
   ろ、いい子の自分を守りたいだけだ!」
 まさに堂々と、面堂は言い放った。
 俺は何も言い返せなくなった。
 認めない、認めたくない! 認めたくないんだ・・・でも!

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