時は夢のように・・・。「最終話」 (Page 14)
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 最後に唯に伝えたいことは多すぎて・・・俺は、隣の席に座った唯の横顔を、じっと飽きずに眺めていた。
 ラムは俺の隣で、窓の外をぼんやりと眺めている。
 唯はきちんと両脚を揃え、ボストンバックを膝の上に載せて、座席に座っていた。
 二人が黙っていたのも、俺と同じ理由だったのだろうか? たくさんの想いが胸に迫って、何を話したらいいのかわからないから・・・。
 
 成田の空も、真っ青で、雲ひとつなかった。
 キイィーーーン・・・・
 轟音とともに、ジャンボジェットの巨体が空を切り裂いていく。あんなに大きなものが、ゆっくりと上昇していくように見えるのは不思
議だ。実際はすごいスピードなのに。
 俺とラム、そして唯は新東京国際空港に入っていった。
 しばらくは、ロビーの椅子に座って、異国の地に飛び立っていく飛行機を窓から眺めていた。
 時間とは冷たいもので、いつもはゆっくり流れている時間が、たくさんほしい時には、あっという間に過ぎていく。
『・・・ご案内致します・・・デトロイト経由フロリダ行き○○○便をご利用のお客様、ご搭乗の手続きをお済ませください。』
 日本語と英語で、アナウンスが流れた。唯の乗る予定の飛行機だ。
唯「そろそろ、行かなくちゃ・・・。」
 唯はバックを開け、パスポートと搭乗券を確認した。
 (あれを奪い取れば、唯は行けなくなる。)
 ふっとそう思った。
唯「それじゃあ・・・あたるさん、ラムさん。」
 俺は席を立って歩き出した唯に向かって、俺は大声で言おうとした。
あたる「行・・っ!」
「行かないでほしいっちゃ!!」
 行くなと言おうとしたとき、俺の後ろからラムが叫んだ。
 ラムの目から、大粒の涙が一筋頬を伝いこぼれた。
 唯は辛そうに、何かを言おうと唇を開いた。
唯「・・・ラムさん。」
『○○○便にご搭乗のお客様は、お急ぎください・・・。』
 再度、アナウンスが流れた。
 振り切るように、唯は目を閉じた。
唯「あたるさん、ラムさん、短い間だったけど・・・ありがとう。」
あたる「・・・行くなよ!」
 俺は思いのたけを吐き出し、振り返ろうとした唯の右手をつかんだ。
 唯の手が、そうっと俺の肩に置かれた。
 ボストンバックが床に落ちる。唯が、俺を抱きしめた。ふわっと、唯の髪のシャンプーの香りに優しく包まれたような感じがした。
 それは一瞬のことだった。
 身をひるがえして、唯はバックを拾いあげ、搭乗ゲートに向かって歩いていった。
 俺は唯の後姿を目で追いながら、様々な思い出が脳裏を横切った。
 行かせたくない! ずっと一緒にいたい! 誰がなんと言おうと、引き留めたい!
 搭乗ゲートをくぐって、姿が消える寸前、想いが溢れて、俺は唯に向かって絶叫した。
あたる「俺も、ラムも・・・同じ空の下にいる! それ・・・忘れんなよ!」
 唯は振り返ると、目に涙を溜めて、
唯「忘れるもんかーっ!! ってね。」
 振り絞るくらい大声で叫んだあと、無理やり微笑んでピースした。
 その姿が、ぼやけた。
 俺は不覚にも、涙をこぼしてしまったのだった。
 忘れようにも、忘れられない顔が、階下に消えた。
 唯は、ついに行ってしまった。
 見送り用のデッキに昇る。
 どこまでも青い空に、唯を乗せたジェットが飛び立っていく。
 小さくなっていく機影を、俺はずっと目で追いかけた。
 思い出だけは俺の胸に残ってる。
 唯が初めて家にやってきた時のこと。最初に、なんて綺麗な娘なんだろうと思ったこと・・・心が浮き立つような明るい笑顔、爽やかな
声、抱きしめた感触も・・・。
あたる「忘れないよな? ラム。」
ラム「絶対、忘れないっちゃよ。」
 そして・・・。
 友引町に、また新しい季節が訪れようとしていた。
 

エンディングテーマ:メランコリーの軌跡
                                       最終話『空は繋がっているから・・・。』・・・完

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