時は夢のように・・・。「最終話」 (Page 7)
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あたる「へーへー・・・、じゃ、動くなよぉ。」
 パシャッ。
 俺がカメラを下ろすと、しのぶは階段を駆け降りてきた。
しのぶ「ま、全部は回れなかったけど、今日はこんなところかな。はい、ありがとー。」
あたる「・・・しのぶ、今日一日俺と一緒で良かったのか? ホントは面堂やほかの女の子と・・・。」
しのぶ「スッキリしたでしょ。今日一日付き合ってあげたんだから、明日はしゃんとしててよね。あんたを見てるとこっちがゲッソリしち
    ゃう。」
 苦笑しながら、俺の話を切るように、しのぶが言った。
あたる「・・・ありがとな、しのぶ。・・・さてと、これからどうする?」
しのぶ「うーん。もうどこかへ行くって時間じゃないし・・・、ホテルに戻りましょうか。」
 しのぶは俺からカメラを受け取ると、小走りで階段を駆け降りていった。
 
 俺たちは知恩院を後にすると、八坂神社の裏手の路地を抜け大通りに出た。
 四条通の八坂神社を背に信号待ちをしていると、
 フォォーーーン・・・。
 遠くの方からやって来る、聞き覚えのある甲高い音が耳を突いた。
 ふと、そちらに目を向けると、
 ギギャーッッ!!! ギギギギギギギッッ!!!
あたる「どわぁぁーーっっ!!!」
しのぶ「キャーーッッ!!!」
 バイクがエライ勢いで俺たちの所に突っ込んできたもんだから、俺たちはビビッて飛び退けてしまった。
 そのバイクには見覚えがある。でも頭の中では「まさか・・・そんなはずない。ここは京都だぞ。」とエラーが発生していた。
 そんなバカなと思っていても、俺の口から出た名前は、
あたる「ゆ・・唯ちゃん?!」
 目の前にいるバイクの持ち主は、バイクにまたがったままヘルメットを外した。
「やっと見つけた! あたるさんっ。」
あたる「なんで?! どうして?! ウソだろっ!! なんで唯ちゃんがここにッ?!」
 唯の顔を見たら、余計混乱してきた。ここ京都だぞ! 東京からバイクで来たってのか?!
唯「いろいろな人に声かけて・・。必死で捜したよ。でも良かったぁ、見つかって。見つからなかったらどうしようかと思っちゃった。」
 ほー・・、と息をついて、唯。
しのぶ「唯さん、あたるクンを追って京都まで来ちゃったの? しんじらんない・・。」
 狐につままれたような顔して、しのぶが言った。
唯「・・えへ。」
 ちょっとだけ憂いをまとった表情で、はにかむ唯。
 それからしのぶは、唯の顔をまじまじと見て、
しのぶ「・・・ふぅ〜ん。京都まで来るほどだから、よほどの事よね。なんとなく察しがつくけど・・。」
 しのぶって女の第六感ってヤツが敏感に働くみたいで、何かを察した様に頷いた。
 すると、俺の顔を見て、
しのぶ「あたるクン、今日は付き合ってもらってありがと。わたし先にホテルに戻るから、あたるクンは唯さんと一緒に・・ね。」
あたる「えっ?」
 それだけ言うと、しのぶはそそくさと歩き出した。
 横断歩道を渡って、こちらを振り返ると、
しのぶ「先生には上手く言っといてあげるから、心配しないで!」
あたる「おい、ちょっと・・!」
 俺が声をかける間もないまま、しのぶは四条通の人波の中に消えて行った。
 
 俺は唯の方に向きかえって、唯の顔を見た。
 唯と目が合ったとたん、心臓が早鐘を打つのが分かる。でも、なるべく緊張を悟られないようにしないと・・。
あたる「ど、どうしたっての、唯ちゃん? ここ京都だよ! バイクで来るなんて無謀にも程がある!」
 ちょっとだけトーンが上がってしまった。でも唯の事を心配してのことだからだ。
唯「・・・ごめんなさい。急に押し掛けて来て・・・。」
 やけに素直だな・・。いつもの覇気が感じられない。
唯「あたるさんに、どうしても会いたくて、それで伝えなくちゃいけないことがあって・・・いてもたってもいられずに。」
 首を竦めて、おそるおそる上目遣いで、唯。
あたる「俺に伝えたい事? 帰ってからじゃ、ダメなの?」
 俺は首をかしげて唯の顔を見た。
 すると唯の双眸が、揃って右に寄った。
唯「ん・・うん。ちょっと・・ね。」
 どーもおかしい。遠路はるばる東京から京都までバイクを飛ばして会いに来てくれたのに、唯の態度が殺伐としていて、支離滅裂だ。
 苦笑しながら俺の顔を見上げる。
 だが、顔を見るなり、ハッ、とすると、
唯「そ、そうだ! こんなところでナンだから、鴨川行かない? 駅の裏だし・・・行こっ!」
 唯は俺にヘルメットを渡す手が、どことなくぎこちない。
 ・・・唯ちゃん、なんとなく気付いてる?
 
                                *
 駅にはすぐ到着した。唯が駐車場にバイクを停めてくるのを待って、俺たちは二人で鴨川に立った。
 しかし・・・鴨川の土手に下りても、唯はなにも話そうとはしなかった。
 真っ赤に変わった空の下、俺は立ったままで、唯の仕草を見つめた。

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