時は夢のように・・・。「最終話」 (Page 5)
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沙織「・・・ラムちゃんは?」
唯「ん・・さっき帰ってきたんだけど、友達の所に行くって言って・・。」
 少々俯き加減で、唯。
沙織「修学旅行、蹴ったんだね・・。」
唯「・・・・・。」
沙織「そっか・・、今夜・・・だったね。」
唯「・・・うん。」
 それだけ言うと、二人とも俯いた。
沙織「・・・あたるクンは、このことを知ってるの?」
唯「ううん・・。多分、知らないと思う・・。」
沙織「ホントに、このままでいいのかな? 私ね、ホントは凄く負い目を感じて・・。」
 ちょっとだけ声のトーンが大きくなった。
唯「でも、口止めされてるじゃない? 絶対に言わないでほしいって。」
沙織「それは・・・そうだけど・・。でもあたるクンのコトも考えてみなよ!」
 唯に捻り寄る風に、沙織が言った。
唯「沙織ちゃん、私、ずーっと考えてた・・。あたるさんは私のことどう思ってるのか・・。考えて考えて・・・でも結局、答えは見つけ
  られなかったんだ・・。けど、あたるさんとラムさんを見てて・・・なんとなくだけど・・・わかった気がする・・。あたるさんとラ
  ムさんの間には、目には見えない強いなにかで結ばれている・・。決して切り離せない、強い絆みたいなものでね。あたるさんも、き
  っとラムさんを・・・。」
 言い終えると、唯は目をぎゅっと閉じて、
唯「・・・あたるさんは、きっと・・・。」
 言葉をこぼした。
沙織「そうかなぁ、それを決めるのはあたるクンだから。でも、あんたがやるべきことは決まったでしょ?」
唯「そう・・そうだよねっ。これは、あたるさんに伝えなきゃいけないんだ!」
 唯は、すっと立ち上がって、階段に向かって歩き出した。
 その時、沙織が後ろから声をかけた。
沙織「あっ、唯、これに連絡先が書いてあるよ。ここのホテルに泊まってるはずだから、電話してみたら?」
 沙織はさっき手に取ったしおりを差し出して言った。
唯「そのしおりは・・、ラムさんのだわ。」
 さっそくしおりにあったホテルに電話してみる。
唯「あっ、あのぉ、そちらのホテルに、修学旅行で友引高校が宿泊していると思いますが、生徒の諸星あたるさんをお願いしたいんですが
  ・・、あ・・・出かけてるみたいですか・・・そうですか・・。わかりました。ありがとうございます。」
 電話を切って、ふっと肩を落とす。
沙織「今日は自由行動の日よ。どこに行ってるか分からないし、夕方までホテルに戻らないみたい・・。」
唯「どうしたらいいの・・、それじゃ間に合わない・・。」
 とりあえず、二階に戻った。
 おろおろしてても始まらないし、もう一回冷静になって考えればいいんだ。
 唯は窓から遠くを眺めた。
 天気がいい、風は弱く雲はゆっくりと流れていく。
 そして、思い立ったように沙織に向き返ると、
唯「ごめんっ、沙織ちゃん。今日一日留守番してて! お願いっ!」
 両手を合わせて、ウインクした。
 沙織の返事も聞かず、唯は箪笥からライダースーツとポシェットを出して、着替え始めた。
沙織「ちょ、ちょっとちょっと! なに考えてんのよあんた?! まさかバイクで京都まで行く気っ?!」
唯「今からなら間に合うはずよ。っていうか、間に合わせるには行くしかない。」
沙織「あんたねぇ・・、いくらなんでも・・っ!!」
 唯の真っ直ぐな瞳と目が合った途端、沙織の言葉が途切れた。
唯「・・・行かせて。こうなったのは、私にも原因があるから。」
 唯の真剣な眼差しに押されて、沙織は断れなくって、
沙織「・・わかったわよ。気を付けて行くのよ。絶対絶対、事故なんかしないでねっ!」
唯「ありがとっ。留守番よろしくねっ。」
 階段を駆け下りて、玄関から庭にまわった。
 
 バイクを覆ってる防塵シートをバサッとはぎ取る。
 赤と黒のグラデーションが丁寧にワックスがけされてピカピカに光っている。唯の自慢のバイクだ。
 茶の間の縁側に腰かけて、ブーツに履き替えていたところに、二階から下りてきた沙織が顔を出した。
沙織「そのバイク、こないだの台風で浸水して、修理しなきゃとか言ってたじゃないの。」
唯「うん。ちゃんとオーバーホールしたよ。ついでに高ブーストに耐えられるようにエンジンチューンしたし、ナビゲーションも付けちゃ
  ったのだ。」
 唯は得意げに胸を張った。
 でも、今は急いでる風に、髪をまとめてピンでとめてヘルメットをかぶる。
沙織「ふーん・・。そのうち飛ぶんじゃない?」
 そんな沙織の皮肉っぽい言葉は、ヘルメットをかぶった唯には聞こえてないみたいだ。
唯「もたもたしてられないな・・。遠回りしたとしても、なるべく止まらないようにしなきゃ。」
 ちいさく呟いて、バイクにまたがった。
 バイクについてるスペシャル装備、レーシングチェンジスイッチをONにすると、バイクのボディの幅が大きくなって、後方からは小さ
なスポイラー(ウイング)が出てきた。二つ目のスイッチを入れると、ホイールの幅が大きくなって、タイヤが太くなった。

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