時は夢のように・・・。「最終話」 (Page 4)
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 でも面堂の言葉が真実だってことを、誰よりも知ってたのは、俺だった!
面堂「・・・理解できたようだな。」
 面堂の目つきが、和らいだ。
面堂「キミに情けをかける気は、さらさら無いのだが・・。僕は唯さんとラムさんのことを思っただけだ。本当に唯さんのことを考えてる
   のなら、ハッキリさせるべきなんだ。キミのしてることは、唯さんの新しい恋のチャンスを引き延ばし妨げてるだけだ。諸星の心は
   決まってるんだろう? だったら、それを彼女に伝えるのだ。」
あたる「面堂・・・、俺は・・・!」
面堂「話はこれだけだ。じゃ、僕は行く。」
 ポンと肩を叩いて、面堂はきびすを返した。
 しかし数歩も行かないところで、面堂は立ち止まり、振り返った。
面堂「そうそう、キミの悩みの件だが・・、ラムさんは何かのきっかけで、自分の行き方に迷いを持ちはじめてるんだと思う。自分はどう
   すればいいのか・・、その悩みの先で、自分の存在価値にまで疑問を感じてるんじゃないか? そこさえ解決してあげれば、何とでも
   なる・・、少なくとも、僕はそんな印象をうけたが。ま、普段強気な人ほど、想定外の事態に弱いものだ。後は、キミ次第だ。」
あたる「・・・面堂っ。」
面堂「んっ?」
 ひねた面が、再び振り返った。
あたる「・・・サンキュー! なんとなく・・・なんとかなりそうだぜ!」
面堂「言っただろ? 僕の修学旅行にケチつけるのは困ると? だが、これ以上うだうだ言うようなら、たたっ斬る!」
 例によって刀を突き出して冷笑を浮かべると、肩をすくめて、面堂は人ごみに戻っていった。
 俺はまた欄干に拳を押し付けた。でも、今度は気合が違っていた。
 ・・・自分から動かなきゃ!
 そうだ、俺にできることは全てやるんだ。バカみたいにタメ息吐くのは、それからだって遅くない! それがひとりの女の子を傷つけてん
なら、なおさらだ!
 俺は気合も新たに、身体を起こした。
 拳を握りしめ、きびすを返した。
 まずは唯ちゃんとのコトをハッキリさせよう。
 ・・・それが、彼女を深く傷つけてしまうことになっても。
 
                               *
7月22日、諸星家。
唯「・・・どうしよかなぁ?」
 部屋で、椅子に座って机に頬杖しながら、唯がこぼした。
 家では、唯が一人で留守番している。
 掃除も洗濯も一通り完了させて、ぼーっとしていたところだ。
唯「今夜・・・か・・。」
 時計に目をやる。時計は午前9時をまわったところだ。
唯「・・・どうしたらいい? わたし、こんなことしていていいのかな?」
 机の隣に鎮座している、大きな熊の縫いぐるみの鼻をちょんとタッチした。
 でもやっぱり縫いぐるみだ。返事なんて帰ってくるわけがない。
 はぁ〜・・。
 タメ息を吐いて、机に突っ伏した時だった。
 ピンポーン。ピンポーン。
 唐突に、玄関のインターホンが鳴った。
唯「はっ、はぁーっい!」
 弾かれるように顔を上げる。
 階段を駆け下りて、玄関までやってくると、
唯「どちら様でしょう?」
 扉の向こうに話しかける唯。
「おはようございますぅ。」
 返ってきた声は、聞きなれた女の子のものだった。
 唯はカギを開錠して、ノブを回した。
唯「おはよっ。」
 ドアの向こうには、ぽっちゃリ顔で可愛いえくぼの沙織ちゃんが、微笑んで立っていた。
沙織「やっほ〜。ちゃんと留守番してる?」
唯「っもう、子供じゃないんですからねっ。さっ、上がって、お茶しよぉ。」
沙織「うふふっ、おじゃましまぁ〜す。」
 階段を上がりながら家の惨状を見て、沙織は、
沙織「まだ家の復旧が終わってないのね・・。もう一ヶ月くらい経つのにさぁ。」
唯「うん、もう少しかかるって。今日も大工さんが来るんだけど・・。」
 沙織を二階の部屋に通すと、唯はお茶の準備をしに再び一階に戻っていった。
沙織「あっ、お構いなくぅ〜。」
 沙織は、机の前にちょこんと座って、辺りを見渡す。
 手持ち無沙汰から、ふと、目に入った小さな本を手に取って、パラパラめくってみた。
沙織「・・・あらっ、京都って・・・これ修学旅行のしおりじゃん。」
 しおりには、日程とか時間表なんかが細かく記されていて、
沙織「ふぅ〜ん・・。今日は自由行動の日かぁ。」
 そんな時、部屋のドアが開いた。
唯「お茶の支度してきたよ。お茶うけに美味しいクッキーでもいかが。」
 にこにこしながら、唯。
 沙織の正面にぺたんこ座りして、お茶をティーカップに注ぐ。
唯「今日はね、唯特製のハーブティーです。どうぞご賞味ください。」
 カップを差し出して、自信満々に胸を張った。
沙織「へぇー、この香り・・・ローズマリーね。」
唯「うん。隠し味に蜂蜜を少々。」
 沙織は一口すすって、
沙織「うんっ。美味しいーっ。蜂蜜っていいかもね〜っ。」
唯「でしょでしょ?」
 それから沙織はクッキーをパクついた。
 しばらく静かな時間が過ぎて、沙織が口を開いた。

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