時は夢のように・・・。「最終話」 (Page 8)
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唯は川岸に腰かけていた。周りの砂利の中から、手ごろなものを選んで取り、対岸へ投げつける。黙々と、それを何度も繰り返した。
唯の肩が動くたびに、赤い水面に波紋が広がっていく。
小石を投げる唯の横顔は、とても寂しそうだった。
・・・その元凶は俺なんだよな。
あたる「・・・あのさ。」
彼女の背中が、ビクンと跳ねた。
唯は、もう一度石を投げると、川を向いたまま、
唯「あ〜、でも、あたるさんに会えてホントに良かった! あたるさんと二人で京都にいるなんて夢みたい。とっても嬉しいなっ。やっぱり
想いは届くのね。」
にっこり微笑んではいるが、でも、それは本心から言ってるのか・・?
俺はちょっと目線を下に移した。
唯「・・・なぁに?」
あたる「もう・・・やめよう、こういうの。」
唯は微動だにしなくなった。
華奢な背中に、俺は頭を下げた。
あたる「ごめん・・・!」
血を吐く思いで、俺は言った。
あたる「ごめん・・・! ホントにごめん・・・! 俺が・・俺がハッキリさせなきゃいけなかったんだよな・・・! 俺・・唯ちゃんを傷付
けるのが怖くて・・・、でもそれってホントは、自分のエゴっていうか・・・! ホントにごめん・・・! 俺、唯ちゃんとは・・
・。」
唯「な、な〜に謝ってるのよ? ワ、ワケわかんないなぁ?」
顔を上げると、唯が笑いながら、こっちを見ていた。
ただし・・・触れれば壊れそうな危うい笑顔だった。
唯「わ、私、分かってたの。あたるさんにはラムさんがいて、私なんかが入り込む余地なんて無いってことは。」
俺には、唯が無理してるのが痛いほどよく分かってた。だって、唯の瞳には、今にもこぼれ落ちそうな涙がいっぱいだったからだ。
・・・こんなときこそ、笑うか。
詫びの意味もあり、俺は無理やり笑顔を作った。
だが・・・それが唯の感情を爆発させてしまったらしい。
唯「・・・どうして笑顔つくるのよォ!」
怒声とともに、唯のコブシが俺の胸にドンと叩きつけられた。
唯が俺の胸元に顔をうずめて、俺の胸を叩いたのだ。
唯「ど・・・・どうして笑うのよ! よりによって・・・・そんな話しの後で・・・! どうして・・・!」
言葉になっていたのは、そこまでだ。
唯は砂利に腕をつくと、すり切れたような嗚咽を漏らしはじめた。
きつく閉じられたまぶたから、大粒の涙がこぼれ落ち、染みを穿っていく。
唯は、悔しそうに泣き続けた・・・。
気の早い星々は、数刻も経たないうちに、頭上に顔を出しはじめた。
暗くなった川岸に、俺と唯は、肩を並べて腰を下ろしていた。
唯の目は、今も赤く腫れているけど、その奥に怒りや悲しみは無かった。どことなく澄んだ表情で、星空を見上げている。
唯「・・・実はね、いままでのあたるさんへの想いは、全部ウソ。」
気持ちのいい夜風のせいだろうか・・・淡い微笑みを浮かべ、唯は口を開いた。
川のせせらぎが、辺りの雑音を消していく。
あたる「・・・えっ?」
唯「沙織ちゃんと二人でね、どうにかあたるさんとラムさんを結ばせてあげようと、作戦を立ててたの。」
あたる「それって・・どういうこと?」
俺の問いに、唯は静かに頷いた。
唯「あたるさんのラムさんへの心の変化から始まって、ラムさんへの恋心を増幅させるために、色々イロイロやったんだから。」
それから唯は、クスクス笑うと、
唯「けど・・・おかしいでしょ? あたるさんのラムさんに対する気持ちを膨らまそうとして、作戦立てて、上手くいった後は勝手に想像
膨らませて・・・よかったねーっラムさん、って。でも、そうやって色々考えてたら、なんだかあたるさんが素敵に見えてきて、だん
だんラムさんが羨ましくなってきちゃって・・。あたるさん、優しいからね。」
唯は、んーっ、と背伸びした。
ひとしきり背筋を伸ばすと、河原にひっくり返って、目を閉じた。
唯「・・・本気になったのは、私が仕事サボってて、遊歩道の階段で会ったときからかな。」
あたる「俺が発信機持って追いかけてった、あの日か?」
唯は静かに頷き、再び夜空を見上げた。
唯「・・・あたるさんが、私のことを心配してくれて、学校まで休んでくれて・・。すごいショックだった。ラムさんじゃなく、今は私だ
けを見ていてくれている。なんてあったかい人なの、あたるさん。・・・落ち込んでた私を立ち直らせてくれたのは、あたるさん、
あなたのおかげ。」
あたる「・・・ごめんな。」
唯「またぁ、よしてよ!」
威勢のいい声ととも、俺は肩をポンポンと叩かれた。
唯は立ち上がると、ニッコリと笑い、
唯「本音を言うとガッカリで・・・ひとりになると泣いちゃうと思うけど・・・でも、そんなに悪いことじゃなかったもん。私、“あたる
さんを好きな私”を本気で楽しんだよ。人を好きになるのって、冷静に考えれば何の意味も無いのに、すごい力が湧いて出るんだね。
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