時は夢のように・・・。「最終話」 (Page 2)
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ラム「ダーリンは・・・唯と付き合ったほうがいいと思うっちゃ。ウチら・・・やっぱり・・・。」
 それから、ラムはもう一度頭を振ると、
ラム「ごめんちゃ・・・!」
 悲鳴に似た声が、最後を告げた。
 間を置かず、俺とラムの間を、カーテンがさえぎった・・・。
 
 俺は窓際の席で、頭をかきむしった。
 さっぱりわかんねーよ・・・! 唐突すぎるじゃないか・・・!
 綺麗な景色なんか、なんの気休めにもなりはしない。
 ラムの本音を訊き出したかったが、ひとりになりたくても未だになれないボロ家である。あの夜は、俺も黙るしかなかった。その後、気
まずい数日を過ごし、俺は修学旅行で京都に。ラムは急用で母星と連絡をとってなくちゃならないとかで、修学旅行をけった。唯ちゃんは
家の留守番だ。
「・・・どうしたの、あたるクン? 元気ないみたいだけど?」
 突然の声に驚かされ、俺は顔を上げた。
 パーマと面堂の頭上・・・背もたれから身を乗り出して、しのぶが不思議そうにこっちを見ている。
 しのぶの顔が、一瞬、唯の顔とダブって見えた。
 もしやラム・・・唯ちゃんに遠慮して、俺と・・・?
 ・・・まさかな。
あたる「・・・なんでもねーよ。今日はマジで落ち込んでるんだ、ほっといてくれ。」
 するとしのぶは、当然のようにふくれっ面になり、
しのぶ「なによ、その言い方。せっかく心配してあげてんのに。」
あたる「うっせー。俺にだって悩みの百や二百、あるんだ。」
しのぶ「百や二百? 大げさなんだから、ひとつやふたつに負けなさいよ。」
あたる「負けるか!」
しのぶ「うー、負けなさいっ!」
 これには、さすがのパーマも呆れたようで、
パーマ「おまえら〜! 夫婦喧嘩するのは勝手だけどな、人の頭越しにやるのはやめろ!」
面堂「まったくその通りですよ、しのぶさん。僕の隣でよければ、空いてます。かけませんか?」
パーマ「隣って・・?」
面堂「キミは諸星のとなりでいいだろう?」
 冷やかな目で面堂を見て、タメ息混じりにパーマ。
しのぶ「そぉ? じゃ、お邪魔しまーす。」
 俺を見てあかんべをすると、しのぶは棚からバッグを下ろして、面堂の隣に座った。
 それはいいんだが、なぜかしのぶは、じーっとこっちを見つめてきたから、たまらない。
あたる「な、なんだよ? なんでもないって言っただろ? 心配すんなって、なっ?」
しのぶ「だったらいいんだけど・・・じゃ、ポーカーでもしようか?」
 しのぶは、にっこり笑った。
 しのぶのことだ、きっと俺を元気付けようとしてるんだろう?
 ・・・そうだな。ここで深く考えてもしようがないし・・・なにより、俺が落ち込んでると周りの人間にも影響する。せっかくの修学旅
行だ。それだけは避けたい。
あたる「よぉし、乗った! パーマ、面堂、おまえらも付き合え!」
 俺は手を振り上げ、なるべく明るく振舞った。
 二人とも頷くと、
パーマ「よっしゃ、そうこなくっちゃな! 俺、ポテチ賭けるぜ!」
面堂「では、僕はこのチーズケーキを。うちのシェフが腕によりをかけて作った・・・。」
 そう言いかけた面堂だったが、急に顔を上げると、俺を見た。
 なにやら言いたげだ。
あたる「なんだ?」
面堂「・・・いや、別に。」
 面堂は首を振ると、
面堂「それより、しのぶさんはなにを賭けますか? 僕たちのレートは高めですよ?」
しのぶ「うふふふっ、驚かないでねっ! わたしはね、わたしは・・・。」
 しのぶはペコちゃんみたいな笑顔で、バッグに手を突っ込んだ・・・。
 
 だが、俺の威勢がよかったのは、初日だけだった。
 次の日の朝から、俺はタメ息をつきまくった。みんなでメシ食ってる時も、移動のバスの中でも、トイレで用を足してても・・、口をつ
いて出るセリフといえば、
あたる「・・・はぁ。」
 既に言葉じゃない。
 ま、こんなに調子が悪くても自分で気付いたんだから、周りの連中にはとっくに知れ渡ってたようで、俺は“タメ息クン”なんてあだ名
を付けられ、しまいには誰も話しかけてこなくなってしまった。パーマや面堂ですら、妙に遠慮する始末だ。
 そのうちに日程は進み・・、清水寺へ。
 俺は例によってタメ息をつきながら、同じ学校の連中に続いた。
 歴史的遺産を目の前にしても、俺はなにも感じなかった。三重塔、音羽の滝・・・でけえな、古いな、人いっぱいだな・・・せいぜいそ
んなトコだ。
 そして、清水の舞台。
あたる「・・・はぁ。」
 黒ずんだ欄干に頬杖をつき、俺は肺の空気を絞り出した。
 いつもなら、隣でニコニコ笑ってる人物がいない・・。
 ・・・ラム。
 俺は欄干に額を押しつけ、思いっきり目を閉じた。
「飛び降りるのはやめてくれよ。僕の修学旅行にケチがつく。」
 男の声に言われ、俺は顔を上げた。
 いつの間にか、傍に面堂がいた。
あたる「面堂・・。」
面堂「もっとも、もうケチはついてるがな。諸星にはタメ息のつかれ通しだ。」
 肩をすくめてみせる面堂。
 そして面堂は、欄干に手をつくと、

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