時は夢のように・・・。「最終話」 (Page 9)
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  私・・・また進めそう。今まで、ありがとう・・・ホンットに嬉しかった。」
あたる「唯ちゃん・・・。」
 すると唯は、顎に人差し指を当て、
唯「んー・・・ま、私もあたるさんには迷惑かけたし・・・、おあいこかな?」
 それからイタズラっぽく舌を出し、笑った。
 唯がベルトのポシェットから手袋を出して、そいつを手に着けるのを、俺は微笑みながら見つめた。
 唯は手をぎゅっと握って、手袋をフィットさせると、
唯「さあ、これが最後の作戦よ。」
 ちょっと気が入った様にそう言うと、俺に目配せした。
あたる「さ? 最後の作戦?」
 いつもはニコニコしている唯の瞳が、いつにもましてマジになってるもんだから、俺は気負ってしまった。
唯「私、あたるさんに伝えなきゃいけないことがあるの。」
あたる「話がみえないな・・。どういうこと?」
 作戦やら、さっきから言ってる伝えたいことやら・・・さっぱり分からん。
唯「ラムさんなんだけど・・。」
あたる「ラム? ラムがどうかしたの?」
唯「最後まで聞いてっ。」
 唯は俯き、目を閉じて言った。
 俺はちょっとびっくりして、口が固まった。
唯「私も詳しいことは分からないんだけど、今、ラムさんの母星で大変なことが起きてるみたいなの。それでね、ここしばらく、ラムさん
  UFOから母星と連絡を取り合って様子を見てたみたいなんだけど、最近事態が急変してね・・。今の星を離れて新しい星に移住する
  ことにしたそうなの。」
あたる「えっ? 鬼星から引っ越す!?」
 マジかよ! そんな話し全然聞いてねーよ!
 寝耳に水ってのは、まさにこのことだった。
 しかし、唯の口から語られる言葉に、さらに驚愕させられることになった。
唯「でもね、その新しい星は、あまりにも遠すぎるのよ。・・・もう二度と地球には帰って来れないって・・・。」
あたる「!!!」
 俺は言葉を失った。一瞬で頭の中が真っ白になった。
唯「ごめんなさい。今になってこんな話をして・・。このことはラムさんから口止めされてたの。」
 あまりのショックに、何を唯に聞いたらいいのか、何を話せばいいのか全然思いつかなくて、やっと出てきたのは、
あたる「い、いい、いつ?」
 唯は一番真剣な眼差しで、
唯「・・・今夜よ。」
あたる「こ!! 今夜っ?!」
唯「あたるさんの顔を見ちゃうと、絶対旅立てなくなっちゃうって言って、修学旅行であたるさんがいないうちに発つつもりよ。ラムさん
  無理矢理感情を封じ込めようとしてる。そのためにわざと修学旅行を欠席したの。」
あたる「そんな大切なこと、どうして早く言ってくれなかったんだ!!」
 俺は感情を抑えきれなかった。怒りにまかせて声を荒げてしまったのだ。
唯「・・・ごめんなさい。私、あたるさんが好きで・・、ラムさんを邪魔者視しちゃってたのかも・・・。最低だね・・私って。答えを出
  すのはあたるさんだってことを見て見ぬフリしてた・・。」
 俯いて、唯。
あたる「ふざけんなよ!! ラムもラムだ! なんで正直に言ってくれなかったんだ!」
 ひとしきり感情を激昂させた後、唯の目をみた。
 申し訳なさそうな唯の顔を見たら、少しだけ冷静になって、
あたる「・・・違う・・かも。気づいてあげられなかったんだ・・・俺は・・。」
 ラムが何を悩んでたのか分からなかった。こんな俺だ。好きかどうかわからなくなっても無理はない。でも・・・俺の想いが、ラムを支
えるコトができるかもしれない!
 まずは、この気持ちを伝えるんだ!
唯「あたるさん、今ならまだ間に合うはずよ、ラムさんを止めて!」
あたる「ああっ!」
 唯の言葉に、急に溢れ出した感情でいてもたってもいられなくなり、俺は立ち上がった。
 ・・・ラム!
 俺はきびすを返すと、全力で土手を駆け上がった。
唯「あたるさんっ!! ラムさんは友達の所に行くって言ってたわ!!」
 ちょうど土手を登りきった時、唯が声をかけた。
 でも、俺は振り返らずに、手を上げて答えた。
 
 四条大橋に出て、駅へ向かっている時には、もう何も考えていなかった。構内に入って電話を見つけると、手を伸ばしてたサラリーマン
風のおじさんを背中でブロックし、心の中で詫びながら、受話器を奪った。
 さっき唯ちゃんが「ラムは友達の所に行った」って言ってたな・・。
 俺の脳を切り裂いたのは、ある女の子の顔だった。ってゆーか、その娘の所じゃなかったら、もうどうしようもない。
 とにかく、俺は直感を頼りに、その娘の家の電話番号をプッシュした。妙に力が入りすぎてて、電話番号を三度も打ち損じ、その度にや
り直した。
 相手が出るまでの時間は・・・・一秒が百年にも感じた。
『はぁ〜〜い、ランちゃんです♪』
 受話器口から、甘い声が聞こえた。
 ランちゃんも修学旅行を欠席してたか・・、どうりで姿が見えないと思った。
あたる「もしもし、あっ、ランちゃん? 俺、諸星あたる。」
ラン『あら、ダーリン? どうしたの突然・・。』

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