時は夢のように・・・。「最終話」 (Page 1)
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 時は夢のように・・・。
 最終話『空は繋がっているから・・・。』
 
 新幹線の車窓を流れていく景色は、田園と山ばかりだった。
 俺は窓枠に頬杖をつき、ただ漠然と外を眺めていた。
 緑が多いのは結構なことだけど、速すぎて趣もなにもあったもんじゃない。学校の奴らが周りにいれば、なおさらだ。聞きなれた騒がし
さが、今は耳障りだった。
 7月20日・・・京都行きの特別車両の中である。
 修学旅行の初日だ。
 修学旅行といえば、秋というイメージが強いが・・、だいぶ早めに決行されたこの旅行は、いつものごとく、
校長「修学旅行に行きましょう。」
 という、校長の一言で決まった。
 校長の独断で、いちいち驚いてたんでは身が持たない・・。どうでもいいや・・。
「・・・それでよぉ、そのこがまたいい〜感じでよぉ。」
「ま、よくある話だ。オチも想像がつく。」
 対面の席で、パーマと面堂が何か話してたけど、今は加わる気にならない。そこから少し目を動かすと、通路を走ってるバカや、座席か
ら身を乗り出して喋ってる連中が見えた。みんながみんなハイテンションで、羨ましい限りだ。・・・皮肉じゃなくて、本心からだ。
 俺は軽く頭を振って、車窓に目を戻し、タメ息をついた。
 ・・・やっぱり俺とあの二人には、微妙な温度差があるんだろうか?
 
 事態が急変したのは、サマー・ブライダルフェア翌日の夜からだった。
 二日酔いで話をしたくない、という二人を気遣う意味もあり、その日、沙織ちゃんを送った後は、俺たちはほとんど口を聞かないまま、
それぞれの床についた。
 布団にひっくり返り、マンガを読んでた俺だけど・・、やっぱり気にかかる。
あたる「・・・なぁ、起きてる?」
 黄色のアコーディオンカーテンに向かって、俺は声をかけた。
 カーテンが少しだけ後ろに下がり、
「ん・・・どうしたっちゃ?」
 頬杖をついて本を読んでいたらしいラムが、顔だけ出して訊いてきた。
 いつもは笑顔なのに、少し違った。真顔でもなければ、怒ってるワケでもない。しらっとして見える。まるで・・・他人に話しかけられ
てるってカンジだ。
 ・・・やっぱり酔ってるせいなんかじゃない。
あたる「あの・・、唯ちゃんは?」
ラム「もう寝てるっちゃよ。」
 ちょっと小声で、ラム。
あたる「そっか・・。」
ラム「どうしたっちゃダーリン?」
 小首をかしげて、ラムが言った。
あたる「あのぉ・・・二人とも、なにかあったのか?」
ラム「・・・えっ?」
あたる「いや、何か引きずってるっていうか・・・そう見えるから。」
 するとラムは、薄く苦笑しながら本を閉じ、
ラム「・・・そんなことないっちゃよ。ウチらはいつも通りだっちゃ。ただ・・・少し調子が悪いだけだっちゃ。」
あたる「じゃ、思い出ってなんだよ?」
 俺が言った直後だった。
 一瞬だが、ラムの顔に動揺が走ったのを、俺は見逃さなかった。
ラム「そ、それは別に・・・深い意味じゃ・・。ウチも3年生だし・・・わかるけ?」
あたる「・・俺、マジに話ししてんだけどな。」
 俺は真剣な顔で、身体を起こした。
 ラムもカーテンを開けると、きちんと座りなおした。
あたる「うまく言えないけど、俺、不安になるんだよ。ラムはなんでも自分で決めるし、唯ちゃんは一人で背負い込むタチで・・・勝手に
    結論を出して・・・俺ってこんなだし・・・頼りないかもしれないけど・・、それでも、話してくれれば一生懸命考えるし、行動
    だってする。なっ?」
ラム「・・ダーリン、ウチのこと、好き?」
 突然、すがるような目つきで、ラムが言った。
 ラムに、いつもの照れはなかった。
あたる「そ、そりゃぁ・・。ん・・と・・・。」
ラム「ダーリンが好きって言わない理由は、なんとなくわかるっちゃ。もし、ダーリンがウチのこと好きなら、ウチのどこが好きなんだっ
   ちゃ?」
あたる「えっ?」
ラム「ウチ、わからなくなったっちゃ・・・! 自分で考えても、いいところなんてまるでないんだっちゃよ・・・! バカだし意地っ張り
   だし、すぐ怒って・・・! ウチってなんなんだろうって・・・!」
 苦しそうに漏らすラムを、茫然と見つめた。
 このことと、思い出がどう繋がるのか、俺には分からない。でもラムがこんなに悩んでるなんて、気付きもしなかった。いつも笑ってる
ラムを、勝手にラム像に仕立ててた。
 ラムは、俺にあわせてくれてただけなんだ・・・!
 そしてラムは、まるで血を吐くように、
ラム「そ、それを考えると・・・ウチ・・・自分がダーリンを好きなのかどうかも・・・。」
あたる「なっ・・・!」
 俺は震えだしてしまった。
 ・・・ウソだろ? いま、ラムはなんてった?
 ラムは悲しそうに俺を見た。
ラム「・・・唯って・・・ダーリンのこと好きなんだっちゃね?」
あたる「ちょっ、ちょっと待ってくれよ、待ってくれ! 俺は、俺は・・。」

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